不動産鑑定士レター 知的財産権の評価 基礎概念・価値評価が共通
住宅新報 2021年2月2日 号 9面
連載: 不動産鑑定士レター
知的財産権というと、どんなものか、イメージが湧きますでしょうか。具体的には「特許権」「商標権」「著作権」等を言います。
特許権とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものを発明とし、これを保護するために与えられる権利。
商標権とは、商標法の規定に基づき登録された商標について認められた権利であり、指定商品等について登録商標を独占的に使用できるもの。
著作権とは、著作権法により認められた権利であり、思想または感情を創作的に表現した著作物について、著作者の権利を保護するものを言います。
これらは「財産権」ですので経済価値を持ちます。この経済価値は貨幣額で表示することができます。
不動産の鑑定評価とは「不動産」の経済価値を貨幣額をもって表示することにほかなりませんので、知的財産権についてもまた鑑定評価を行うことが可能です。この知的財産権も鑑定評価を行うべき社会のニーズがあるのですが、その評価はどこに依頼することになるのでしょうか。そう、不動産鑑定士です。
不動産鑑定士の仕事というとまず浮かぶのは土地や建物といった不動産の評価業務だと思います。もちろん、「不動産」鑑定士ですので、不動産の鑑定がメインですが、財産価値に関する評価の専門家と捉えれば知的財産権の評価もその範疇(はんちゅう)となります。
評価手法について
通常、財やサービスに経済価値が発生するためには効用、相対的希少性、有効需要の3要素が必要であり、財・サービスの経済価値を評価する場合に考慮される基礎概念となっていますが、この考え方は不動産でも知的財産権でも変わりません。
また、特許権における価値評価の基本的な考え方として、「インカムアプローチ」「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」が挙げられますが、これも不動産鑑定評価で言うところの「収益方式」「原価方式」「比較方式」にそれぞれ対応するものです。
知的財産権評価のニーズ
知的財産権評価が行われた有名な例として、青色発光ダイオード訴訟が挙げられます。これは、会社に在職中に行われた発明について、その帰属と発明の相当対価の請求額等について、原告N氏と被告日亜化学工業株式会社が争った事案です。裁判自体は、高裁において、原告側の職務発明の特許を受ける権利の譲渡の「相当の対価」として約6億円で和解が成立しています。
興味深いのは、裁判で用いられた特許権に関する評価書の金額です。ここでは3者の評価書が提出されていますが、株式会社ベンチャーラボとASG監査法人が提出した鑑定書においては、複数の評価手法を採用し、対象特許権の価値を2870億~2942億円の範囲において算定され、新日本監査法人の鑑定書においては、当該特許関連製品が会社にもたらしたものは損失であるとし、特許権の価値はゼロとしています。
また、監査法人トーマツの鑑定書では当該特許を利用して生産販売した製品から稼得した利益の額から、その製品の生産販売に貢献した特許以外の資本の期待利益額を控除したものを資本還元した金額を超過収益とし、この超過収益の現在価値を174億円と求めています。
このように、特許権について、個別の価値評価がなされた場合、各評価額に相当の乖離(かいり)が発生していますが、これによる関係者への影響も大きいことから、価値評価体系の構築もさることながら、説得力のある鑑定書作成には、担当者に経済・金融・文化等あらゆる分野についての見識が求められることになります。
近年、知的財産権の価値についての意識も高まりつつあり、訴訟が行われるケースのほか、銀行が知的財産権を担保に融資を行う際、その担保価値評価を求められるケースや、M&A等で企業が保有する特許権や商標権の経済価値評価を求められるケースなど、知的財産権の価値を適正に評価する重要性が認識され、第三者による客観的な価値評価が求められています。
実務上はまだまだ知的財産権の評価手法が完全には確立されておらず、不動産鑑定士が担当者というイメージもありません。会計事務所や特許事務所が「鑑定評価書」を発行しているケースが多いですが、「評価」のプロフェッショナルは不動産鑑定士であり、その評価手法も体系的に確立された評価基準を有する不動産の鑑定評価手法がベースになっているものですので、この分野についても不動産鑑定士が活躍できる新たなフィールドになるものと期待しています。
(公益社団法人東京都不動産鑑定士協会・仲肥雅浩)






















