【暑中特集2026 止まらないインフレ】国内大手は価格転嫁力 住宅メーカー「実力差」が鮮明に 米国組は金利耐性が焦点
住宅新報 2026年8月4日 号 19面
住宅市場で最も厳しいのは、注文住宅のローエンド層とミドル層だ。26年5月の持ち家着工は前年同月比で大幅に増えたが、前年の落ち込みの反動が大きく、1万5708戸という水準はなお低い。住宅価格の上昇に住宅ローン金利の先高観が重なり、1次取得者の購買力は確実に低下している。土地代を含めた総額を抑えにくい都市部では、顧客が建物面積や設備仕様を削る動きも強まりそうだ。
一方で、すべてが同じ打撃を受けるわけではない。今後の業績を左右する最初の分岐点は、値上げを受け入れられる顧客層を持っているかだ。
積水ハウスなどが主力とする高価格帯の注文住宅は、富裕層や資産保有層の需要に支えられ、相対的に底堅い。株価や資産価格の上昇が続く限り高断熱、省エネ、デザイン性などに付加価値を求める需要は残る。
もっとも、高額案件は設計や契約に時間がかかり、受注から売り上げ計上までの期間が長期化する公算が大きい。
2つ目の分岐点は、仕入れ規模と工期管理能力。原油価格の上昇は輸送費だけでなく、樹脂サッシや断熱材、シーリング材など石油化学製品を使う住宅建材にも波及する。建材メーカーは21年以降、繰り返し値上げしている。注文住宅は契約時に販売価格がほぼ決まる一方、着工後の資材高を追加請求しにくい。
受注残が多い会社ほど、原価上昇が数四半期遅れて利益率を圧迫する危険があるが、全国規模で資材を共同調達し、建材会社と長期的な取引関係を持つ大手は優位だ。大幅な納入遅延が生じにくく、仕様の共通化や代替材への切り替えも進めやすい。半面、販売価格の安さを競争力としてきた中小ビルダーは、値上げすれば客が離れ、据え置けば粗利益が減るという難しい選択を迫られる。
戸建て「供給力」が武器
分譲戸建て住宅では、飯田グループホールディングスやオープンハウスグループ、ケイアイスター不動産など、土地の仕入れから建築、販売までを一体化した企業が相対的に有利となる可能性がある。
住宅着工の低迷や中小事業者の供給抑制によって完成在庫が過剰にならなければ、大手は一定の価格転嫁を進めやすい。特に需要の厚い首都圏では駅に近い小規模用地を仕入れ、床面積を抑えて総額を管理する商品企画力が重要になる。インフレ下では「安い住宅」そのものより、「購入可能な総額に収めた住宅」を安定供給できる会社が強い。
ただし、金利上昇が続けば需要の先食いが起こる。住宅価格やローン金利の先高観を受けて購入しようとする動きが、当面の契約を支える一方、その反動で27年に入ってから販売が鈍るリスクもある。各社が好調な受注を恒久的な需要増と見誤り、土地在庫を積み増せば、景気後退時には値引き販売を迫られる。
そして3つ目の分岐点は米国事業である。積水ハウスや住友林業などは米国住宅を成長の柱としてきたが、インフレの再加速によって住宅ローン金利が高止まりすれば、購入可能性、いわゆるアフォーダビリティーの悪化が続く。
米国では潜在的な住宅不足が需要を下支えするものの、金利負担が重く、買い替え需要が動きにくい。販売促進のために住宅メーカーがローン金利の引き下げ費用を負担すれば、販売戸数を維持できても採算は悪化する。米国の販売戸数だけでなく、値引きや金利支援を差し引いた実質的な利益率が重視される。
積水ハウスは国内の戸建て住宅、賃貸住宅、開発事業が下支えとなるため、米国事業の低迷が直ちに全社業績を崩すとは限らない。だが、海外住宅を成長期待の根拠としてきただけに、市場からの評価は上がりにくい。住友林業も同様に国内の木材・建材事業との相乗効果はあるが、短期的には米国金利への感応度が高い状態が続くだろう。
事業分散が防波堤に
大和ハウス工業は戸建てだけでなく、賃貸住宅、物流施設、商業施設、事業施設などを幅広く展開する。戸建て需要の減速を他部門で補える事業分散はインフレ局面での大きな防波堤となる。
そうした一方で、開発投資額が大きく、有利子負債も多いため、金利上昇の影響を受けないわけではない。住宅・不動産各社では低金利期に長期固定で調達しており、借入金利が一気に上がる可能性は低いが、借り換えのたびに利払い負担は増える。「既存借入金がすべて現在の高い金利水準で借り換えられた場合、経常利益を10%以上押し下げる」(市場関係者)可能性が指摘されている。影響は緩やかだが、長期間にわたり利益を圧迫する『静かなコスト増』が始まる。
住宅メーカー全体を見渡すと、今後12~18カ月の基本シナリオとしては、住宅着工戸数が大きく回復しない一方、建築単価は高止まりするという展開となりそうだ。市場全体は縮小しても、大手各社の売上高は値上げによって維持される可能性がある。
27年に優勝劣敗が加速
競争力を保つのは、資材を安定調達でき、値上げを顧客に受け入れてもらえ、土地と建物の総額を管理できる企業になる。国内では高価格帯に強い積水ハウス、事業分散が進む大和ハウス、首都圏で商品企画力を持つオープンハウスグループ、量産効果を生かす飯田グループなどが相対的に事業を優位に進めやすい。
半面、低価格だけを武器にし、資材調達力や自己資本が弱い会社は厳しい。住宅需要が減少する中で、インフレによるコスト増を販売価格に転嫁できなければ、受注を取るほど利益が減る事態にもなりかねない。住宅業界も着工戸数という「量」の競争から、調達力、価格決定力、資本力を競う段階に入る。インフレは住宅市場全体に逆風を吹かせるが、同時に大手と中小、国内中心企業と海外展開企業の実力差を浮き彫りにする。27年にかけて住宅会社の再編や事業売却を含め、優勝劣敗が加速する公算が大きい。
























