【暑中特集2026 止まらないインフレ】政府 インフレ踏まえ住宅政策を多層化 取得、供給環境の安定図る
住宅新報 2026年8月4日 号 18面
税制や補助で取得支援
住宅価格高騰踏まえローン減税本格延長
物価上昇は終わりが見えず、「住宅価格の高騰」も常態化する中、住宅市場は縮小トレンドが続いている。7月31日に発表された6月分の新設住宅着工戸数を見ると、総戸数は前年同月比18.6%増の6万6344戸で、3カ月連続の上昇となっているものの、これは法改正の影響で落ち込んだ前年の反動という面が強く、市場環境自体のトレンドとして減少傾向は否めない。国土交通省住宅局の担当者は、住宅供給事業者へのヒアリングから「一般物価の上昇、資材価格等の上昇による住宅販売価格の高騰を背景に、消費者マインドの低下が続いている。(法改正の影響など他要因による)波はあるものの、着工戸数の減少傾向は変わらない」と状況を説明する。
こうした環境下では、政府による住宅取得支援策の存在感が従来以上に高まっている。その主軸の一つとなる住宅ローン減税は、26年度税制改正で適用期限を5年間延長した。いったんは24年度以降の縮小が決定されたものの、住宅取得環境の厳しさを鑑み、2度の単年度延長を経て、今回本格的な延長に踏み切り、内容も拡充したという経緯がある。この判断は、政府・与党が、現在の住宅価格と取得検討者の購買力との差の大きさを、深刻に受け止めている事実の表れとも言えるだろう。
現在のローン減税は、26年1月1日から30年12月31日までに入居した住宅が対象。今回の改正では、省エネルギー性能の高い既存住宅について借り入れ限度額を引き上げ、子育て世帯と若者夫婦世帯への上乗せ措置を講じたほか、控除期間を13年間に延ばしている。
床面積要件を40m2以上に緩和する措置も既存住宅に広げた。合計所得金額が1000万円を超える場合や、子育て世帯などが借り入れ限度額の上乗せ措置を利用する場合は50m2以上とする。住宅価格の上昇により取得可能な物件が限られる中、比較的小規模な住宅や既存住宅を含めて選択肢を確保する狙いがある。新築住宅への支援を維持しながら、良質な既存ストックの取得を税制面で後押しする点がポイントと言える。
省エネ性能に応じた支援の重点化も進む。28年以降に建築確認を受ける省エネ基準適合住宅は、原則として住宅ローン減税の対象外となり、より性能の高い住宅への誘導が強まる。28年以降に入居する場合は、災害危険区域や土砂災害特別警戒区域などの災害レッドゾーンに新築する住宅も対象外となる。税制を通じ、住宅取得支援と一体的に、省エネ性能や立地の安全性も推進する方針の表れだ。
省庁連携の補助事業
補助制度では、国土交通省、経済産業省、環境省が連携する「住宅省エネ2026キャンペーン」が主軸だ。新築とリフォームを対象とする複数の事業を一体的に運用し、住宅の断熱性能向上と高効率設備の普及を支える。
新築向けの「みらいエコ住宅2026事業」は、GX志向型住宅を全世帯の支援対象とする。基本補助額は地域区分に応じて1戸当たり110万円または125万円。長期優良住宅とZEH水準住宅は子育て世帯または若者夫婦世帯を対象とし、性能や地域区分に応じて補助する。注文住宅だけでなく、新築分譲住宅の購入や賃貸住宅の新築も対象に含まれる。
リフォームでは、高性能な窓への改修、床や壁、天井の断熱工事、高効率給湯器の導入を支援する。「先進的窓リノベ2026事業」や「給湯省エネ2026事業」に加え、既存賃貸集合住宅の給湯器交換を対象とする事業も設けた。持ち家取得者だけでなく、賃貸住宅オーナーや管理会社にとっても活用余地がある。省エネ改修は相応の工事費を伴うものの、入居後の光熱費を抑えられるため、エネルギー価格上昇の影響を軽減する政策的意図が読み取れる。
住宅金融支援機構の「フラット35」も、金利変動への不安が強まる中で一定の役割を果たす。長期固定金利により返済額を見通しやすくするほか、子育て世帯や省エネ性能の高い住宅、既存住宅の取得と改修を支援する制度を組み合わせている。税制、補助、住宅金融を重ね、取得時の負担と居住後の支出を共に抑える施策構成で、インフレ環境における住宅市場を下支えする政策方針と考えられる。
中東情勢受け資材供給網を維持
税制や補助等の取得支援策は、現在の社会環境を踏まえて拡充しているものの、基本的には以前から継続している政策分野だ。
一方、足元の住宅政策においては、供給面の安定化に力を入れていることが特徴的な点と言える。背景には、26年2月頃からの中東情勢の悪化と、それに伴う原油流通の停滞による、住宅建材・設備・資材の供給不安という課題がある。原油由来の化学製品を原料とする住宅建材・設備の調達が難しくなり、一部で供給が滞る事例が確認されたため、国交省住宅局と経産省は4月、住宅生産関係団体に協力を要請した。
影響が懸念されたのは、塗料や接着剤、断熱材など、幅広い建材の製造に関係する原材料だ。政府は、住宅資材全体が直ちに不足する状況ではないとの認識を示しつつ、絶対的な供給量というよりも、発注の集中や在庫の偏在による流通上の目詰まりを、住宅・資材の供給上の重要課題と位置付けた。
特定の建材が不足するとの懸念が広がれば、住宅事業者が通常以上の量を一斉に発注し、流通段階で局所的な逼迫(ひっぱく)を招きかねないのは確かだ。そこで国交省などは事業者に対し、必要量を超える発注や不急の在庫確保を控えると共に、実際に必要となる時期と数量を明らかにした計画的な発注を行うよう求めた。メーカー、卸、流通事業者、工務店等が供給状況を共有し、資材が必要な現場へ行き渡る環境を整えることで、過度な資材価格の高騰を抑制する狙いの要請だ。住宅の供給とコスト、そして販売価格の安定化を図る動きで、個別の国際情勢への対応でありつつ、インフレ下の特徴的な住宅価格抑制策とも言えるだろう。
5月には国交省、経産省、林野庁が連携し、住宅建材・設備・資材の流通事業者にも協力を要請。住宅建材は石油化学製品だけでなく、木材、合板、住宅設備機器など多様な供給網で構成される。原材料及び製品メーカーから商社、問屋、施工者までの各段階で情報が途切れれば、供給余力があっても現場で調達難が起きる。3省庁による要請は、住宅生産の川上から川下までを対象とした対応だ。
国交省と住宅生産団体連合会などの業界団体は、「住宅分野情報提供窓口」も設けた。個々の事業者から寄せられる情報を基に、建材や設備の調達に支障が生じた事例を収集し、品目、地域、流通段階などを把握することで、供給の偏りや目詰まりの解消につなげる仕組みだ。全国的な統計だけでは捉えにくい、局所的な供給障害の早期発見を図る狙いがある。
代替建材や設備への変更に伴う行政手続きにも対応する。資材調達の都合で設計時と異なる製品を用いる場合、住宅性能評価や完了検査の確認に時間を要し、完成や引き渡しが遅れる可能性がある。住宅局は、必要な性能の確保を前提に、建設住宅性能評価を円滑に実施するよう関係機関へ周知した。調達、施工、検査を一連の供給過程として捉えた措置だ。
住宅事業者にとって、資材の遅延は工期の長期化や人件費の増加、引き渡し時期の変更につながる。政府の対応は価格上昇を直接補てんするものではないが、正確な需給情報を共有し、不要な発注競争を抑えることで、供給混乱に伴う追加コストの発生を防ぎ、住宅供給コストの急激な上昇抑制につながることが期待されるだろう。
ストックの存在感が一層拡大
インフレ社会への対応では、既にある住宅を長く使い、市場で循環させる政策も重要となる。政府が3月27日に閣議決定した新たな住生活基本計画は、26年度から35年度までの住宅政策の方向を示したもので、既存住宅流通、空き家対策、マンション管理・再生といった住宅ストック関連政策を一体的に推進する姿勢を打ち出している。
我が国の住宅ストックが量的に充足してから相当な期間が経過し、空き家も依然、課題として注目され続けている。新築供給だけに依存せず、既存住宅の流通・活用を促す仕組みの推進は、国も継続的に取り組んでいる重要課題だ。加えて、近年の新築価格や建て替え費用の上昇は、住宅取得者と事業者の双方に重い負担となる。インフレ対策の面からも、これまでにも増して住宅ストック活用の存在感が高まっている状況であり、新たな住生活基本計画でもそうした側面は言及されている。
現行の空き家対策を見ると、所有者からの相談対応から改修・流通、除却までを地域内で結び付ける体制整備のほか、空き家のコンバージョンと活用、デジタル技術を使った物件把握、低未利用地を含む住宅地の再編など、幅広いアプローチで活用の促進を目指す動きが見られる。
とはいえ、空き家を流通へ戻すには、所有者の確定から残置物の処理、改修費の算定、接道や用途の確認など、複数の課題を解く必要がある。不動産事業者、建築士、工務店、司法書士、金融機関などが連携し、相談から活用までを一貫して支援することが欠かせない。既存住宅市場では、住宅の維持管理状況や改修履歴を価格へ反映する査定手法、消費者への情報提供、住宅金融の整備も課題となる。国交省では、こうした面での環境整備も手掛けているが、政策が奏功しストック市場の成熟が進めば、一定の品質が担保された既存住宅を新築と比べ低価格で取得しやすくなるものと思われる。インフレが続くほど、その存在感は高まっていくだろう。
インフレ下の住宅行政は、住宅の購入費を軽減するだけでは完結しない。税制と金融で取得を支え、省エネ化で居住費を抑え、建材供給網の混乱による工期とコストの増加を防ぐ必要がある。更に、空き家や既存住宅、マンションを適切に管理、改修し、市場で循環させることが、限られた住宅資産を有効に使う基盤となる。「取得」「供給」「活用」を一体で進める政策運営が、物価と建築費の高止まりする住宅市場の安定を左右しそうだ。
























