【暑中特集2026 止まらないインフレ】 転機迎えた再開発事業 拡大志向から脱却を
住宅新報 2026年8月4日 号 19面
森トラストの伊達美和子社長は7月14日に開いたメディアミーティングで、市場全体の課題として「建設中の建物は数年前に計画したもので、現在のように各ディベロッパーが積極投資できない状況では、これから先、マーケットに新しい資産が増えない。それが経済成長にどう影響してしまうのか。東京の魅力を減退させないか、地方の観光客誘致に影響しないか、問題は深刻だ」と強い懸念を示す。
必要性の検証
一方で「現時点では深刻な影響は出ていない」という大手ディベロッパー共通の声があるのも事実。しかし、それはあくまで現時点での話。長かったデフレ期から脱却し本格化の様相を見せ始めたインフレ、止まらない建築費の高騰、人手不足の長期化予測などを踏まえれば今、不動産開発に大きな転機が訪れようとしていることも確かだ。
東急不動産の田中辰明社長は、「再開発で一番重要なのは、地権者、地元の人たちがどういう街づくりを求めているかということだ。最終的な形は施設の整備ということだとしても、本当にそこに何が必要なのか、どんな機能が街づくりの中で求められているのかということがポイントになる。それがしっかりとしている事業であれば競争力もあり、多少の見直しはあるとしてもこれからも形として進んでいくだろう」と述べている。
不動協と日建連
業界団体も対策に乗り出した。不動産協会(不動協、吉田淳一理事長)と日本建設業連合会(日建連、押味至一会長)は6月1日、建設費高騰への対応などを話し合う「持続可能な建設業及び不動産業の実現に向けた協議会」の初会合を都内で開いた。両団体が協議会を開催するのは初めて。
資材価格や労務費の高騰、人手不足などを背景に再開発事業の停止や工期の遅れが発生。それらが都市の国際競争力強化や防災力強化を阻害し、経済全体の低迷を招く恐れもあることから、昨年11月に不動協が日建連に呼び掛けていたものだ。協議会の傘下に設置した幹事会を2、3カ月に1度の割合で開き、1年後をめどに協議会として優先的に取り組むべき課題や取り組み方の方針をまとめる。
7月17日の第1回幹事会では電気や空調など設備工事を担う専門会社の人手不足が取り上げられた。9月に予定している次回幹事会では建設事業の生産性を高める仕組みや働き方の柔軟化に議論を広げる予定だ。
重要になる公共性
一般的に、建設費高騰に対する対策としては以下のような項目が考えられる。例えば、従来の〝より大きく、より高く〟という発想から脱却し事業期間の長期化を避ける。
また、用途複合化の見直しである。オフィスや商業施設、ホテル、住宅など全ての用途で今後も安定した需要を確保していける時代は過ぎたのではないかという視点だ。更には、既存の杭の再利用などコストを下げる建築工法の開発。そして、行政との連携強化。公共性の高い事業であれば容積率緩和、補助金、税制優遇などの支援策を行政に求めることができる。これからの再開発は極めて公共性の高いものだけが許される時代に入ったという見方だ。
これからの再開発事業に高い〝公共性〟が求められるようになるのは必至だ。一企業の利益や視野を超えた高い公共意識が事業の成否を握る。
例えば、これまでの再開発事業でも道路や広場を整備する、地域の防災性を向上させるなど公共性に対する配慮はなされてきた。しかし、これからの再開発に求められるのは、その事業が本当に地域に必要なのかという厳格な検証である。
そもそも再開発には、例えば高層ビルによって日照が遮られる、地元商店街が姿を消し人情味が薄れるなどのデメリットも指摘されてきた。そうしたマイナス点を補ってもなお余りあるメリットが地域にもたらされる事業であるかどうかが厳しく問われることになる。
ディベロッパーとしては、今後は公共性と収益性を対立概念としない発想が必要だ。「公共性が収益を生む仕組み」をどう組み込めるかが、これからの再開発事業の核となる。
























