【暑中特集2026 止まらないインフレ】 リノベ市場、成熟期 価格競争から「質」で選ばれる時代 変わる市場の評価軸
住宅新報 2026年8月4日 号 20面
「普及」から「標準化」へ
「市場全体は踊り場にあると思う」。そう切り出したのは、リノベーション協議会の山本武司理事長だ。一見すると、市場拡大にブレーキがかかったようにも聞こえるが、その言葉に悲観的な響きはない。むしろ、リノベーション市場が次の成長段階へ移ったという実感がにじむ。
これまで業界は、「リノベーション」という言葉の普及に力を注いできた。消費者から「リノベーションしたい」という言葉が自然に出てくるようになり、「普及という意味では、一定の役割は果たせた」と山本理事長は話す。
だからこそ次のキーワードとして掲げるのが「標準化」だ。協議会では品質基準を満たした「適合R住宅」に加え、省エネ性能を備えた「エコキューブ」、より導入しやすい戸建て向け「R5住宅ライト」などを展開し、中古住宅を安心して購入できる環境づくりを進めている。
目指すのは、リノベーションを特別な商品として売ることではない。住宅市場の中で当たり前に選ばれる選択肢として定着させることだ。住宅価格高騰が市場を押し広げたことは間違いない。だが、その先に求められるのは件数ではなく品質であり、量ではなく信頼だ。「普及から標準化へ」という言葉には、市場の成熟を見据えた業界の問題意識が凝縮されている。
「自分らしく暮らすため」
市場の変化は、生活者の意識にも表れている。リノベるの利用者調査(2026年6月公表)によると、住まい探しで中古マンションを第一候補とする人は8割を超え、新築を「2位以内」とする割合は前年から低下した。
調査結果が示したのは単なる代替需要ではない。「購入によって実現したい生活がある」と答えた人は56.0%と前年を8ポイント以上上回り、リノベーション費用の平均もフルオーダーでは約1850万円まで上昇した。
背景にあるのは、「安く買う」ことから「自分らしく暮らす」ことへの価値観の転換だ。間取りや性能、デザインへのこだわりなど、中古住宅を選ぶ理由は、価格だけでは説明できなくなっている。
かつてリノベーションは、「新築は高いから」という消極的な選択肢として語られることも少なくなかった。だが今は違う。「どんな暮らしを実現したいか」を起点に住まいを選ぶ人が増え、その実現手段として定着し始めている。市場を支えているのは価格だけではなく、暮らしへの投資という新たな価値観だ。
生活者が住まいに求める価値が変われば、業界が評価する価値も変わる。その変化を映すのが、同協議会が主催する表彰イベント「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」だ。創設当初はデザイン性や空間提案が注目されたが、近年は環境性能やストック活用、地域との関わりなど、「建物を通じてどのような価値を生み出したか」が重視されるようになった。
昨年評価されたエンジョイワークスの「月見台住宅」は、その象徴的な例だ。団地を再生し、多様な人が集い、交流する場として再編集した。建物を直すだけでなく、地域との新たな関係性を生み出した点が評価された。
つまり、評価されているのは建物だけではない。建物を通じて、どのような暮らしを生み出し、地域へどのような価値を還元できるか。その視点がリノベーション市場の新たな評価軸になりつつある。
「選ばれる市場」をつくる
市場が成熟するにつれ、事業者が競う対象も変わり始めている。商品そのものの競争から、市場そのものを育てる競争へ――。消費者が安心して中古住宅を選べる市場を、どう築いていくか。その視点から各社の取り組みを見ると共通する方向性が浮かぶ。
インテリックスホールディングスは、新たな中期経営計画で、自社の将来像を「リノベーション・インフラ企業」と位置付けた。人材育成やDXなど市場基盤を整えるほか、今年7月には全国保証、楽天銀行と連携し、中古住宅購入者向け住宅ローンに関する新たな取り組みも開始。金融面まで含め、市場基盤の整備を進めている。
一方、エフステージは、自社で培った査定や商品企画、人材育成などのノウハウを、マンション買い取り再販事業者向けネットワーク「ワンリノ」を通じて加盟企業へ展開する。年間販売戸数(ネットワーク合計)は3700戸超。首都圏の買い取り再販市場で約16%を占める規模まで成長した。同社は、「目指しているのは加盟社数ではなく、良質なリノベーションマンションがより多くの消費者に届く環境づくり」と話す。品質やノウハウを共有することで、市場全体の信頼性を底上げしようという考え方だ。
一社が優れた商品をつくるだけでは、市場は成熟しない。品質を高め、人を育て、ノウハウを共有し、安心して選べる環境を整える。各社が挑んでいるのは、「市場そのものの価値」を高めることにほかならない。
成熟市場、その先へ
住宅価格高騰は、リノベ市場の拡大を後押しした。しかし、市場をここまで押し上げたのは価格だけではない。生活者の価値観が変わり、業界は品質や性能、保証制度、人材育成、ネットワークづくりを積み重ねてきた。その一つひとつが市場の信頼性を高めてきた。山本武司理事長が語った「普及から標準化へ」という言葉は、制度や基準づくりだけを意味するものではない。生活者が安心して中古住宅を選び、事業者がその期待に応え続ける市場を築くこと。その積み重ねこそが、リノベ市場の次の成長を支える。住宅価格高騰が市場を広げた。しかし、その先で始まっているのは、市場そのものの質を高める競争である。
























