不動産取引現場での意外な誤解 賃貸借編261 地震予防の既存不適格建築物の補強請求は可能?
住宅新報 2026年8月4日 号 15面
連載: 不動産取引現場での意外な誤解

Q.南海トラフ地震という巨大地震の発生が予測されていますが、そのような状況下で既存不適格建築物と貸主の耐震補強工事義務との関係をどのように考えるべきでしょうか。
A.最初に、既存不適格建築物がどのような建築物かを定めた次の建築基準法第3条第2項の規定について以下説明します。
「この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない」つまりその建築物や敷地が現行の法律に適合しないものでも、すでに完成しているものや工事中のものについては、適法として扱うということです。
Q.すると、そのような既存不適格建築物に対する貸主の耐震補強工事義務について、裁判所はどのように考えているでしょうか。
A.その点については、裁判所は、次のように判示しています。「そもそも賃貸借契約の目的物である建物が新耐震基準に適合していないからといって、直ちに賃借人による当該使用収益が不可能になるということでもないし、賃借人が契約上の義務として当該建物について耐震補強工事を行う義務があるということもできない(東京地判平成25年2月20日)。」
Q.その義務があるかどうかの判断基準はどういうことになるのでしょうか。
A.第222回で申し上げましたが、貸主の修繕義務の有無は「契約締結時に予定されていた目的物の性状の範囲内での使用に必要な限度において肯定される。」ということですから(東京地判平成23年7月25日)、その具体的な判断基準は(1)借主が契約時に既存不適格建築物であることを認識していたもの(東京地判平成25年2月20日)、(2)借主が耐震診断が行われていないことを認識かつ了承した上で賃貸借契約を締結したと判断されるもの(東京地判平成25年6月24日)がいずれも否定事例に挙げられています。要は、借主が既存不適格建築物であると承知の上で入居した場合は、耐震補強工事の請求はできないことになります。
渡邊不動産取引法実務研究所
代表 渡邊 秀男





















