【暑中特集2026 止まらないインフレ】管理から〝収益支援〟へ 収益構造の変化で役割転換 家賃上昇も膨らむ運営コスト
住宅新報 2026年8月4日 号 20面
部屋探しの指標となる賃料相場は、大都市圏を中心に力強い上昇が続いている。不動産・住宅情報サービス「ライフルホームズ」がまとめた市場レポートによると、首都圏の平均掲載賃料は2025年12月時点で、シングル向けが前年同月比24.8%プラスの8万8294円、ファミリー向けが同14.0%プラスの14万8682円を記録。20年の計測開始以来の最高値を更新し、今年に入っても東京23区のファミリー向け賃料が25万円台に達するなど高値安定が続いている。背景には、新築分譲マンションの価格高騰に伴い、本来であれば住宅購入に動くはずの層が賃貸市場に残留している需給の引き締まりがある。
だが、こうした賃料相場の上昇が、必ずしもオーナーの収益改善(手残りの増加)に直結しているわけではない。現在の市場は、家賃の上昇ペースを上回る勢いで物件の運営諸経費が膨らむ、インフレ局面にあるためだ。
物件運営の現場に目を向けると、電気・ガス料金の高騰が共用部の光熱費負担を直撃しているほか、建築資材高騰に伴う修繕費、退去時の原状回復費、更には定時清掃などの人件費や損害保険料にいたるまで、あらゆるコストが右肩上がりで推移している。家賃収入が増加傾向にあるものの、運営コストの膨張がそれを相殺する形となり、オーナーの手残り(利益)は必ずしも一律には拡大しない構造となっている。
入居者側も日常生活の中で物価高に直面しており、額面の家賃だけでなく、月々の支出総額に対してこれまで以上にシビアな視線を注いでいる。ポータル上では掲載賃料が上昇する一方で、ユーザーが実際に問い合わせる「反響賃料」の上昇は限定的で、生活防衛策が顕在化し始めた。
今後のインフレ下の賃貸経営で求められることとは、単に家賃を上げる経営ではなく、入居後の生活コストと物件運営費の双方をコントロールし、いかに「利益を残す経営」へ導くかという、プロパティマネジメント(PM)の本質的な役割への転換のようだ。
ポータルが可視化する「住宅の燃費」 額面家賃から総居住費の比較へ
こうした入居者側の生活防衛意識の高まりに対し、部屋探しの主戦場である主要不動産ポータルサイトの機能拡充が、市場のルールを大きく変えつつある。国土交通省が推進する「建築物省エネ性能表示制度」の定着に伴い、各ポータルは新築賃貸住宅の募集画面において、星の数による省エネ・断熱性能評価だけでなく、統一基準に基づく「目安光熱費(年間・月間)」を物件詳細ページにダイレクトに表示できる機能を実装した。これにより、従来の「家賃・共益費・駅距離・築年数・設備」の4大指標に、新たに「住宅の燃費(光熱費負担)」という評価軸が客観的データとして組み込まれた。
この表示機能の変化は、管理会社にとって、建物の省エネ性能を単なる仕様スペックではなく、募集時に訴求できる明確な「経済価値」として扱えるようになったことを意味する。例えば、大手住宅メーカー各社が供給をけん引する新築の「ZEH―M」仕様の物件の場合、高断熱化と高効率設備の導入により、一般的なアパートに比べ、入居者の光熱費を大幅に抑制できるポテンシャルを持つ。
仮に周辺の競合物件より額面の家賃設定が数千円高かったとしても、ポータル上で「目安光熱費がそれ以上に安い」ことが可視化されていれば、家賃の高さが正当な付加価値として入居者に納得され、スムーズな成約に至るといった構造が生まれた。
ただし、ポータルが表示機能を用意しても、管理会社やオーナーが評価書を正しく取得し、データ入稿をしなければ、画面には反映されない。目安光熱費はあくまで一律の試算値という制度上の側面はあるものの、表示できる情報を整え、募集現場で経済メリットを論理的に説明できるかが、インフレ下におけるリーシング成果を分ける。
既存物件も表示可能に 改修と募集の一体提案も
省エネ可視化が進む中、今後、賃貸管理ビジネスの主戦場は、市場の圧倒的多数を占める既存(築古)アパートの処方箋といえるだろう。
既存住宅は建築時の資料が残っていないケースが多く、建物全体の省エネ性能評価を取得するにはコストと手間の面でハードルが高かった。
これに対し、国交省は実務的な救済策として、一定の要件を満たす窓や給湯器などの省エネ改修を部分的にアピールできる「省エネ部位ラベル」(㊨)の運用を開始。窓、または給湯器のいずれか一方の改修が必須項目となる同ラベルに対し、SUUMOやアットホームなどのポータルサイトは、既に既存住宅向けページでの画像入稿・表示対応を開始している。
先進的な管理会社は、このポータルの表示システムを逆手に取った投資提案をオーナーへ積極化させている。例えば、「住宅省エネキャンペーン」などの国の補助金をフル活用してオーナーの初期持ち出しを抑えつつ、「内窓や複層ガラスへの交換」「高効率給湯器への更新」などを一歩前倒しでアプローチを実施している。
更に、2027年末の蛍光灯製造・輸出入禁止を見据えた共用部・専有部のLED化による運営コスト削減策も併せて提案し、物件全体の〝燃費向上〟を図る。
そういった改修工事の実施を経て、性能評価に基づく部位ラベルを取得し、それをポータルサイトへの掲載によって条件検索結果よる流入捕そくにつなげ、最終的にリーシングの現場で光熱費低減の経済メリットをロジカルに説明する――といったプロセスを一気通貫で設計できる実務力こそ、今まさに求められている。
アセットの価値につながるPMへ
これまで個別に語られがちだった「省エネ」「DX」「リーシング」などは、「オーナーの収益を維持し、選ばれる物件をつくる」という一点に収れんしつつある。積水ハウスは先月、地域市場の分析から適正賃料の設定、募集業務までを一体で担うリーシング専門の新会社を設立した。一連の高度化につながる動きといえそうだ。
イタンジによる申込・契約手続きのオンライン化や、スマサポの入居者対応のデジタル化、クラスコの生成AIを活用した定型業務の自動化などは、単なる社内の人手不足対策にとどまらない。事務作業を徹底的にローコスト化・効率化することで、管理会社の最大のマンパワーが最も付加価値の高いプロパティマネジメント(PM)業務に集中する構造改革にもつながる。
ポータルサイトの表示基準という市場のルールを正確に捉え、データを基に収益を設計できる管理会社の提案力や運営力が、今後のアセットの価値を決める時代に入っているといえそうだ。























