どうなる賃貸住宅市場 法人税減税は上向き材料 消費税率「10%」の影響は
連載: 2014年資産運用ビジネス特集
ついに消費税が8%に引き上げられた。経済環境が整えば、来年10月には税率10%に引き上げられる。一方で政府は6月13日、現状30%台の法人税を20%台に引き下げることを新たな成長戦略の柱として取りまとめた。市民の財布を直撃する消費税引き上げは、賃貸相場に下方圧力をかけるが、法人税減税が企業の業績向上、そして賃金アップにつながれば、賃貸市場が上向く可能性は高い。

1都3県新築住宅供給量の推移国土交通省住宅着工統計からタスが推計(拡大して表示)
元々売買市場に比べて賃貸市場は景気の影響を受けにくいが、日本賃貸住宅管理協会総合研究所(日管協総研)の長井和夫氏は、現状について「全体として回復基調にあるのは確か」と話す。「消費税引き上げを前に若干の駆け込み需要があって、賃貸相場も上がった。ただ、その反動もあった」。
同総研の日山秀治氏が行った大手ディベロッパーや管理会社へのヒアリングでは、「3月末には空室率が下がったが、4月以降は退去もあり、大きく動いていない」との感想を得たという。従って「14年の見通しに限れば、よくて横ばいか微増」(日山氏)。
では、消費税が10%に上がった場合はどうか。
長井氏は、「8%時のように若干の駆け込み需要が生じるだろうが、反動も出る。それが軽微で済むのか、大きく落ち込むのか見えにくい」と語る。「欧州問題など、不確定要素が多いため」(永井氏)だ。
ウクライナとロシアの欧州問題、アジアでは南シナ海や東シナ海をめぐる中国と日本、東南アジア諸国情勢との領有権争いが激しさを増している。イラク情勢も予断を許さない。いずれもエネルギーと資源の要衝地での問題であり、今後原油や原料などの高騰が続けば、法人税減税に沸いた市場が冷える可能性はある。企業の業績が落ち、下がった失業率が再び上昇に転じる可能性はある。
相続税対策で新築増 〝単身者向けバブル〟の様相
こうした状況下で両氏が確実視するのが、新築賃貸物件着工数の増加だ。「(足下を見る限り)金利が安く、失業率は4%台から3%台に改善されて雇用環境もいい。特に東京は五輪と山手線の新駅開発が控え、ヒト・モノ・金が集まりやすい状況が続く。更に来年、相続税の控除率が下がれば、その前に相続税対策として賃貸アパートやマンションを建てておくという動きが出る」(長井氏)。
毎月首都圏と近畿圏の賃貸住宅市場レポートを発表している(株)タスR&D室長の藤井和之氏は、「相続税対策が賃貸市場を押し上げている」と読む。
「首都圏では賃料上昇がみられる。賃料は、景気が上向くと新築物件が増えるため高めに設定される。しかし、現在新築が増えているのは、相続税対策として単身者向けの新規物件が数多くつくられているため。賃貸市場全体を考えると好ましくない」(藤井氏)。というのも「景気が停滞すると、一気に値崩れする可能性がある」(同氏)からだ。
実はこの10年ほど、首都圏では1K、1R物件が、〝単身者物件バブル〟と呼べるほどの比率で、異様に積み上がっている。
「大体2000年以降に単身者向けの新規供給量が増え始め、今は首都圏全体のストックの約6割が1Kと1R。1Kの半分、1Rの3割が築10年以内という状況だ。2LDKや3DKといった家族向けはほとんどなく、わずかにつくられているのが1LDK」(同氏)
こうした状況に相続税対策の1K、1Rの〝駆け込み供給〟が上積みされれば、一気に値崩れする可能性は十分にある。リーマンショック以降一貫して改善されてきた空室率も、「すでに東京23区でじわじわ上がっている。供給が需要を上回っている可能性は否定できない」(同氏)。
なぜ、これほど単身者向け賃貸が増えてしまったのか。
「一つは人が首都圏、都心のほうに集まってきたから。バブルの時に郊外に出ていた人が、住み替えなどでより都心に近いほうに移ってきた可能性がある。二つめは少子高齢化の影響。家族世帯が減っているわけではないが、結婚しない単身者が増えているので、供給側もまだ需要があるとみて増やしてきたと考えられる。三つめは不動産投資ブーム。これには二つあって、一つは『金持ち父さん貧乏父さん』という本に触発された個人不動産投資家が増えたこと。もう一つが不動産の証券化だ。こうした要因によって不動産が投資しやすい環境になり、2000年ごろから個人の投資ブームが起こった。1K、1Rが増えていった時期と重なる」(同氏)
なぜ、個人投資家が1K、1Rを好むのか。
「不動産は投資対象として考えると、同じ面積に建てるなら、2LDKや3DKより1R、1Kのほうが小分けにできるので投資効率がいい。個人投資家にとっては断然魅力的」(同氏)
増えるフリーレント
藤井氏は供給過多の現況を指摘しつつも「五輪やJR山手線の新駅などの開発もあって、今のところは都心に向けて人がどんどん集まっている。そのため、建てても何とかなっている」とみる。「特に東京23区は強い。2020年の五輪直前までは、空室率がまだ下がるかもしれない。ただ賃料が上がれば、(賃借人が)より安いほうへと周辺に逃げる可能性はある。そこからまた都心回帰となった時、リーマンショック後のようにボロボロと崩れる懸念はある」(同氏)という。特にオリンピック後は、選手村などが放出されるのでその可能性は高くなる。
いうまでもなく、競争力のない賃貸物件の増大は、空室率の上昇という形で表れる。その場合の対策としては、賃料の引き下げがまず考えられるが、最近はフリーレント(一定期間賃料無料)の物件も増え始めている。
ただ、日管協総研の長井氏は「フリーレントの実態はつかみづらく、市場にどう影響を与えているのか見えない部分もある」という。というのも、フリーレントをうたわずに実施されているケースもあるからだ。
「仮に1カ月賃料をフリーレントすれば、大体8%程度の値下げになる。フリーレントは都心でも40%くらいあるとされる。今、市場は値上げ基調となっているが、そうした〝隠れ〟フリーレントがあればそれを割り引く必要がある。となると、そこまで右肩上がりではない、という見方もできる」(長井氏)
なぜフリーレントが増えるのか。同総研の日山氏は「値下げよりフリーレントのほうが、長期メリットが出やすいと貸主が判断するため」と話す。
「賃料はいったん下げると、更新時に上げにくい。礼金、敷金も下がる中で、賃料ダウンだけはなんとしても阻止したい。だから半月、1カ月くらいは賃料をサービスしたほうが、後々メリットがあるとみたのだろう」(日山氏)
2020年〝後〟への準備 高齢者・外国人への対応を
問題は、ポスト2020年だ。祭りの後、どれだけ空室率を抑えることができるか。少子高齢、人口減少国の日本において、その鍵を握るのが高齢者と外国人であることは論を俟たない。
2010年時点で、東京23区内の賃貸住宅に住む65歳以上の単身者は約15万人。団塊世代を含めると計21万人いる。単純化していえば、20年もすればこれらが空き家になる可能性がある。
こうした物件がサービス付き高齢者住宅(サ高住)などに変化できるかが、生き残りの条件となってくるだろう。ただ、藤井氏はサ高住について、「大手業者ならある程度対応できるかもしれないが、中小規模の不動産業者ではオペレーションが難しい。したがって一般の賃貸住宅が変わっていくのは厳しいのではないか」と指摘する。
日管協総研の日山氏は、高齢者に対する意識を変えることを求める。「一般に貸主は、高齢者の入居については健常高齢者を望む。しかし健常高齢者は、何かあれば一日で軽度障害者に変わってしまう。そこを見越した対策が必要だ。そもそも、高齢者や障害者に優しい住まいとは誰にとっても優しい住まいであるはず。行政を含めたまちづくりの一環として考えていく必要がある。重度障害になったときの医療機関やケアハウスなどの受け皿など、住宅を含めた生活の〝循環財〟をいかにつくっていくかがポイントなる」
もう一つの鍵を握るのが外国人だ。
国内企業に採用された新卒者の外国人比率は、年を追うごとに拡大。将来的には社員の5割以上、8割を外国人とする企業もある。
日管協総研の長井氏によれば、この数年で貸主の意識にも変化が見られるようになったという。「以前は『外国人はNG』だった貸主も、『いい人だったら入れてもいい』に、更に『問題がないなら入れよう』に変わりつつある」(長井氏)。タスの藤井氏は「大家さんが直接やり取りするのではなく、間に外国人を仲介管理する専門会社などがあると、外国人向け賃貸市場が広がる」と期待する。
2020年まで、まだまだやれることはありそうだ。
























