彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇236 テック企業と不動産業改革 性善説は盤石か システムは誰のため
住宅新報 2026年8月4日 号 15面
連載: 彼方の空
旧態依然とした不動産業界の変革をめざす不動産テック企業の台頭が目覚ましい。また、そうしたテック企業が開発したシステムを導入し、業務の効率化を実現している不動産会社も少なくない。AIによる問い合わせ対応や物件紹介、契約書の自動作成、マーケティングなど多くの業務が従来の手作業と比べれば何十分の一の時間で済むようになった。電子契約、IT重説などの環境整備も進んでおり、営業マンの負担軽減は驚異的だ。
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では、それによって何がどう変わるのか。
「テクノロジーで業務を効率化できれば、それによって浮いた時間を顧客との面談に向けることができ、従来よりも顧客のニーズにきめ細かく寄り添うことができる」というのが、一般的見解だ。
しかし、これは〝不動産業界性善説〟に立った見方でしかない。効率化によって生まれた時間が必ず顧客利益のために使われるという保証はない。
業界性悪説
例えば、売り上げだけを重視する会社なら、浮いた時間は成約件数を更に伸ばすために使うだろうし、営業マン自身もノルマ達成だけが目的なら、自身の営業トークに磨きをかけるために使うだろう。導入されたAIを使って顧客の過去の問い合わせ履歴、属性、購入可能予想額、行動パターンなどを把握し、成約率を高めるためのトークを研究することができるからだ。〝最後の決断〟を促すタイミングを計ることも容易だろう。テクノロジーそのものに善悪はない。開発されたシステムをどう使うかが問題だ。それは会社の経営姿勢と個々の営業マンの倫理観によって決まる。今こそ業界の良心が問われていると言ってもいいだろう。テック企業もシステムだけで業界変革ができるとは思っておらず、導入企業との連携が重要と見ているようだ。しかし、業界側の理解が得られない場合はどうなるのか。業務の効率化を顧客利益のために使わざるを得なくなるようなシステムが開発されるようになるかもしれない。
業界に気付きを
しかし、それでは不動産業界は完全にテック企業の支配下に置かれることになる。
ある不動産会社の代表は「(そうなる前に)個々の不動産会社に強い自浄作用が働いて業界自ら改革に取り組む機運を盛り上げていくしかない」と話す。そしてテック企業と連携して本気で業界改革に乗り出すべきだと。
改革すべきことは山のようにあるが、日本人の多くが住宅取得は一生に一度である。だからこそ、顧客が正しい意思決定ができるように導くことこそ不動産会社の仕事であるという自覚――全てはそこから始まる。実は不動産業界変革の兆しはテック企業の台頭に限らない。最近はユーチューブやインスタグラムで物件を紹介する個人が増えているという。登録者が何万人もいるユーチューバーであればその宣伝効果はあなどれない。国民はいずれそうした個人の信頼性に頼るようになるのかもしれない。
エージェント
昨今の〝エージェント化〟の動きがそれを示している。不動産営業は企業よりも個人のブランドが重視される方向に向かい始めているようだ。
大手不動産会社の間ではテクノロジーを内製化する動きもある。テクノロジーの運用という先を見据えた動きのようにも見える。しかし社内だけのシステムにはあまり意味がないという指摘もある。いずれにしろ、真に業界を変革するのはハードとしてのテクノロジーではなく、テクノロジーをどう使うのかという思想だ。不動産テック企業には「消費者の利益確保のための技術とは何か」を改めて考えていただきたい。同時に不動産業界にも大きな思想変革が求められている。不動産業は誰のために存在するのか、中でも住宅仲介は依頼者の意思決定にどう関わるべきなのかという深い思索が求められている。
























