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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇233 定期借家権普及を阻む壁 定着した戦時立法 不良賃借人保護の矛盾

住宅新報 2026年7月14日 号 11面

連載: 彼方の空

総合
  • 彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇233 定期借家権普及を阻む壁 定着した戦時立法 不良賃借人保護の矛盾

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  • 定期借家権普及のためには「居住の安定」をどう図るかが課題となる

    2 / 2定期借家権普及のためには「居住の安定」をどう図るかが課題となる

 2000年3月に誕生した「定期借家権」がいまだに一般の賃貸住宅市場で市民権を得ていない理由は明白だ。まったく理念の異なる「普通借家権」が今でも〝普通〟の借家権として存続し続けているからである。特殊な借家権が普通の借家権以上に普及するわけがない。

 では、定期借家権はそもそも何のために創設されたのだろうか。その目的はどこにあったのか。その最大の目的は賃貸人と賃借人の立場を法律上対等にすることで賃貸市場を活性化することにあった。

当時の政策思想

 定期借家権の創設が議論され始めた90年代後半はバブル崩壊後で不動産市場は停滞しきっていた。そのため様々な規制緩和策が議論される中、定期借家権も定期借地権(92年8月)に続く規制緩和策として誕生したのである。

 普通借家契約は契約期間が終わっても貸主は「建物を自ら使用する」などの「正当事由」がなければ契約を終了させることができない。これが、貸主の安定した賃貸経営を阻む要因になっているとして正当事由制度のない借家権が創設された。

 しかし、従来からの普通借家権はそのまま存続することになったため、定期借家権誕生の効果は極めて限定的なままで今日に至っている。

 もっとも、ここにきて賃料が何十年ぶりかに上昇傾向を見せ始めたことから、定期借家物件の供給が増え始めてはいる。これは賃料値上げ交渉がしやすいという貸主側の思惑が強く働いているためだが、そうした理由では借主側の理解が得られるわけはなく、所詮は一時的傾向に終わるものと考えられる。

正当事由の正当性

 仮の話だが普通借家権が廃止されて定期借家権だけになったらどうなるだろうか。アートアベニューグループ代表の藤澤雅義氏が提唱している3タイプの定期借家権に分かれることになると思う。(1)非再契約型(転勤家族の留守宅運用など)(2)再契約未定型(再契約するかどうかは貸主次第)(3)再契約原則予定型(契約期間中に借り手に問題がなければ原則再契約とする)――(本紙6月23日号13面参照)。

 その場合、当然大半の定期借家権が「再契約原則予定型」になることは必定だ。藤澤氏はこう述べている。

 「再契約予定型は、家賃滞納や契約違反などがなければ原則として再契約する。だから優良な入居者は安心して住み続けられるし、問題のある入居者は再契約できない。私はこの仕組みこそが日本社会に最も適した定借の活用法だと思う」。

 全く同感である。これこそ対等な賃貸借契約だ。現行の普通借家は不良入居者でも長期間居続けることができるヘンな制度である。なぜ、このような制度が生まれたのか。1941(昭和16)年に戦時立法として正当事由制度が導入され、戦後も廃止されることなく今日まで続いているからである。

 その背景には空襲による住宅難で戦後も居住不安が長く続いたことなどが挙げられるが、今は空き家増加、人口減少時代である。それでも廃止論が巻き起こらないのは、いつのまにか「居住権」という言葉で借家人を保護することが正しいことというメンタリティが日本社会に定着したからである。

 おそらくこの先も普通借家権が廃止される日は永遠にこないだろう。もし来るとすれば、それは日本人が真の自立心に目覚め、対等で自由な契約こそが本当の意味で安定した居住の確保につながることに気付く日である。

 生活の基盤である住まいは安定した〝居住〟が大前提となることは言うまでもない。賃貸住宅における居住の安定をどう守るべきか。定期借家権に対する正しい理解こそがその答えとなる。なぜなら、貸主と借主が対等になってこそ互いの事情を汲んで双方に利をもたらす自由な契約形態が可能となり、市場の活性化をもたらすからだ。

 

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