酒場遺産 ▶140 広島牛田 みっちゃん 30年越し、川辺に残る広島の味
住宅新報 2026年7月7日 号 11面
連載: 酒場遺産

広島での仕事もひと段落つき、かつて住んでいた牛田(うした)へ向かった。駅北口の目の前には、仏舎利塔の立つ山がそびえているが、ちょうどその裏のあたりが牛田である。強い日差しの中、20分ほど歩くと太田川沿いの道に出る。そこから少し山側に入った場所に、当時と変わらぬ姿の社宅が建っていた。牛田は広島市内でも古くからの住宅街として知られるが、太田川の治水と共に歩んできたエリアでもある。筆者が30代半ばに支社の管理職として赴任した約30年前、2年間を過ごした懐かしい場所である。
期待はしていなかったが、太田川の縁には、焼肉・ラーメンの「みっちゃん」が、当時のままの姿で残っていた。木造の簡素な造りは、住宅街の境界にある川辺の風景に溶け込んでいた。営業開始前だったが、店の前で休んでいた男が「まだ開いてないけどいいですよ」と中へ入れてくれた。店内には厨房を囲むカウンターと、小さなガスコンロを置いた木製のテーブル席がある。壁にはビールの広告や禁煙のポスターが貼られ、冷蔵庫には冷えたビール瓶が並んでいる。昔のままだ。店を切り盛りする男によれば、1年前に女将が80歳になったことを機に、彼が店を継いだのだという。
ビール中瓶と焼肉を頼んだ。味噌漬けホルモンとせせりを焼く。そして「コウネ」が外せない。牛の肩あたりの部位で、今では広島の焼肉店では定番となっているが、この店が発祥だという。薄く切られた肉は脂の甘みがあり火の通りが早い。締めには葱がたっぷりと載った葱ラーメンを頼んだ。かつて、仕事の帰り道によく食べたが、あの頃と変わらぬ味だった。広島で、忙しくも楽しく過ごした当時から30余年が経ち、今は還暦をとうに過ぎた。数年前のことのように思い出す。(似内志朗)






















