イタンジが提案するアプローチ 不動産DXの現在地 AI×データ×システムの活用 Vol.1 AI活用の前提、判断基準構造化(前編)
住宅新報 2026年7月7日 号 8面

イタンジ 執行役員 中村友拓
賃貸管理業界における人手不足の声は、以前にも増して切実になっている。採用の困難さ、ベテランの離職、後任への引き継ぎが追いつかない現場――。そうした状況を、サービスを提供する立場として、私たちは日々、目の当たりにしている。
そもそも、賃貸管理の業務は、募集・契約・入金督促・修繕手配・退去精算まで、全領域を横断する。しかも、金銭と契約に直結するため、各工程でミスの無い判断が求められる。担当者が辞めるたびに、新規採用で人材の穴が埋まらないのは、単純な人数の問題ではなく、その担当者が蓄積してきた物件や契約ごとの固有の知識まで失われるからだ。
その解決策として注目されているのがAI(人工知能)による業務の自動化だ。入金の消し込みや書類の作成、問い合わせ対応をAIに任せれば人手不足を補えるという期待が広がっている。
最近では、作業の代行のみならず、トラブル対応の優先順位付けなど「判断」の領域までAIに委ねようとする動きもある。ただ、この方向性にはいくつかの懸念がある。
法的責任や金銭が絡む業務では、判断の根拠を説明できることが不可欠だ。AIが出した結論を後から検証できなければ、問題が起きたときに対処しにくい。また、判断を全てAI任せにすると、業務ノウハウが組織に蓄積されにくくなる。属人化を解消しようとした結果、特定の個人への依存がAIへの依存に置き換わっただけ、ということにもなりかねない。
本質的な課題は、判断基準が特定の担当者の経験に依存していることにある。担当者が変わるたびに対応水準がばらつき、離職が組織の知識喪失に直結する。
賃貸管理でこの影響が特に大きいのは、業務の性質による。担当者はオーナーや取引関係者と長期的な関係を築きながら、物件ごと・契約ごとの事情や経緯に関する知見を業務を通じて蓄積し、判断の根拠にする。そうした知識はマニュアルに落としにくく、担当者が変わると実質的に一から積み直しになりやすい。
その観点から、有効だと考えるアプローチはAIに判断を任せる前提として「判断基準を構造化すること」になる。
暗黙知をルール化し、AIやシステムが扱える形に落とし込む。「修繕費用が一定額以下は自動承認、超えた場合はエスカレーション」といった基準をあらかじめ設計しておけば、AIはその範囲内で動作し、判断の根拠も明示される。
続く後編では、AIを活用する前提としての判断基準の構造化をどのように進めるのか、そして業務や担当者の役割がどのように変わるかについて、具体的に述べる。
(毎月1回掲載します)






















