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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇231 住まいが持つ不思議な力 心癒され穏やかに 利便性はただの満足

住宅新報 2026年6月30日 号 11面

連載: 彼方の空

総合
  • 彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇231 住まいが持つ不思議な力 心癒され穏やかに 利便性はただの満足

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  • 近年は住み手の感性に訴える集合住宅も増えている

    2 / 2近年は住み手の感性に訴える集合住宅も増えている

 衣・食・住は生活に欠かせないものであると同時に、それを楽しむことができる〝文化〟である。〝医・職〟も生活に欠かせないが文化とは言わない。文化の源泉は「楽しむ」ことにある。

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 長く重いローン負担のために生活費に余裕がなくなるようではせっかく購入した住まいを楽しむことはできない。衣や食を切り詰めても手に入れた理想の住まいを楽しんでいるという人もいるだろうが、住まいは生活(暮らし)をトータルに楽しむための器だから、衣食を切り詰めゆとりがなくなるようでは意味がない。

 では、暮らしをトータルに楽しむとはどういうことか。

 本コラムでは何回も述べてきたことだが、それは住まいによって心が解放され癒されるということである。日常の些末な不安や悩みから解き放たれ、広い気持ちで自分にも人にもやさしくなれるということである。住み手の感性にマッチした住まいには不思議なほどそういう力がある。

根源にある感性

 感性は理性と違い自己の奥深くに潜んでいる。つまり根源的なもの。それゆえ自分の感性にマッチした住まいを手に入れることはそうたやすくはない。高額の分譲住宅なら可能とも限らない。どれほど高額であっても、その価格の大部分が立地の良さや間取りの広さ、最新設備のためだったとしたらどうだろうか。

 それは住まいを楽しんでいるというより、生活の利便性や高級感に満足しているだけである。利便性や高級感に満足することと、住まいを楽しむこととは違う。なにがどう違うのか。

 前者は快適ではあっても、心が解放され癒しを得るまでには至らない。住まいは本来、そこに身を置くことで心が穏やかになり、気持ちが素直になり家族は言うに及ばす、隣人とも心を通わせたくなるものなのだ。

 だから住まい選びに最も肝要なのは、都心へのアクセスや設備などではなく、自分の感性にマッチした住まいを選ぶことである。では住まいが自分の感性にマッチするとはどういうことなのか。 

 それは人生に対する価値観との融合である。人と接することの意味、自分にとってなにが大切で、なにが不要なのかを住まいが教えてくれるということである。住まいが醸し出す空気と自分の価値観との共鳴というべきか。

共鳴に救い

 暮らしを楽しむ住まいにするための条件がもう一つある。それは住まいを超え、同じ地域に住む人たちとの価値観の共有である。同じ屋根の下に暮らす集合住宅であればなおさらだ。戸建ては分譲マンションのように管理組合や総会がない代わりに、地域に豊かなコミュニティーがなければ、住み手が自己満足するだけの住まいとなる。

 近年は「大量相続時代」を迎え、既存の古い住宅地の中にポツンポツンと新たな住宅が建てられつつあるが、それで地域としての活性化が進んでいるようには見えない。その意味でこれからは、たとえ小規模でも思想やコンセプトを提示し、それに共鳴する人たちが集まるような地域と住まいづくりが求められている。

 人口減少時代には、一度に多くの住戸を供給する大規模開発よりも、たとえ規模は小さくともそこに住む人たちが楽しく暮らすためのルールや理念を提示することのほうが重要だ。それはときおり街角で見かけるような「笑顔とあいさつが行き交う街」「お年寄りと子供にやさしい町」「緑や自然を大切に」といった分かりやすい標語でいいと思う。ただし入居に際してはそうした理念に対する賛同表明が必要だ。

 これからの住宅・不動産ディベロッパーには、そうした住み手の感性に応える思想やコンセプトを備えた住まいづくりが求められている。「価値観の多様化」といえば聞こえはいいが、その内実は他者への無関心と分断が進む今の日本社会。希望は人が人を思いやる街づくりである。

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