酒場遺産 ▶138 広島大須賀町 岸本食堂 広島の日本酒文化を愛す店主
住宅新報 2026年6月23日 号 23面
連載: 酒場遺産

この数年で広島駅南口は再開発がなされ、広島駅自体も2階の自由通路により南北が快適につながり、新駅ビル「minamoa(ミナモア)」が開業し、9階建ての商業施設・シネコン・ホテルなどから成る再開発ビルが竣工した。2階には路面電車(広島電鉄)が直接乗り入れ、南口広場の大屋根やペデストリアンデッキと連携し、新しい交通・商業の拠点へ転換したのだ。駅前広場の西側には19階建てのオフィス・商業ビルである「広島JPビル」が建つが、その裏側には、真新しい再開発エリアとは対照的な低層の古い木造の建物がほぼ隙間なく密集し、狭い路地が網目のように張り巡らされる大須賀町、通称「エキニシ」が広がる。戦後の闇市をルーツに持ち、高度経済成長期から昭和後期にかけて歓楽街として賑わったが、廃墟のようになっていた時期もあった。しかし平成の終わり頃から、古い建物の魅力に気づいた若い店主たちが続々と飲食店をオープンさせていき、今では若者や外国人観光客が多く訪れる、広島屈指の人気スポットへと変貌を遂げた。
筆者が岸本食堂を初めて訪ねたのは、「広島JPビル」の開発企画に関わっていた時期だった。勢いを増していくエキニシの中でも比較的早い時期に開店した店のひとつで、昼はカレー屋、夜は日本酒専門店という珍しい店である。すっかり気に入ってしまい、出張の度に寄っていったものだ。
岸本食堂は2014年創業。築70年以上の古い木造長屋をリノベしてつくられたという。狭小空間を最大限に活かし、一階はカウンター席、急階段を上がった二階の小部屋の構成だ。店主の岸本達也氏は広島の日本酒文化を心から愛し、その魅力を伝える伝道師のような存在だ。自ら蔵元へ足を運び、納得した酒を仕入れるという。雨後の月(仁方)、誠鏡(竹原)、神雷(神石)、瑞冠(三次)、旭鳳(可部)、老亀(北広島)、美和桜(三次)、華鳩(呉)、賀茂泉(西条)、賀茂鶴(西条)、酔心(三原)、亀齢(西条)と豊富だ。
そして、濃厚でクリーミーな白レバー、穴子の白焼き、いぶりがっこなどを加えたポテトサラダ、鮮魚を味噌と薬味で叩いたなめろうなど、酒のつまみも絶品ぞろいである。また、ランチタイムの本格的なスパイスカレーも美味しい。広島に行かれる際には、「エキニシ」を覗いていかれることをお薦めしたい。新旧の広島を見ることができる稀有な場所だ。(似内志朗)






















