彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇229 閉塞感強まる住宅市場 価格も家賃も上昇 都の新政策に期待が
住宅新報 2026年6月16日 号 11面
連載: 彼方の空
分譲価格の高騰で賃貸から抜け出せない一般世帯が増加している。その賃貸住宅もインフレ加速を背景にオーナーからの家賃値上げ要請が強まっている。止まらない建築費高騰、実需市場への投資マネー侵入などこれまでにない要因も絡んで今や住宅市場は「供給よりも需要が多ければ価格が上がり、少なければ下がる」という基本原理から完全に逸脱し始めた。
打開策がない閉塞状況からの脱却には、何らかの公的介入が必要だ。中でも価格高騰で持ち家を諦めた層が頼る賃貸市場へのテコ入れは必須となる。東京都が6月から供給を始めるアフォーダブル住宅はその貴重な政策例となる。
官民連携
都は官民連携の「アフォーダブル住宅供給促進ファンド」(今週のことば)を設立した。民間からの出資も仰ぎ、低い金利で資金を調達。マンション(新築・築浅物件)や中古戸建て(空き家など)を取得し、市場家賃の8割水準で貸し出すという構想だ。特徴は新婚や子育て世帯が主な対象で、単身者や高齢者世帯などは除外される予定。それに加え、課題は供給戸数が限られることだ。
ファンドは全部で4本創設されるが供給戸数は合わせて350戸程度しかない。運用期間は1本が15年、3本が10年の予定。運用期間終了後はファンドが物件を売却し家主が変わるので家賃などがどうなるのか、将来的な不透明感もある。ファンド以外に東京住宅供給公社によるアフォーダブル住宅が年200戸、6年間で約1200戸の供給が予定されているものの市場へのインパクトは小さい。ただその社会的意義は大きい。
画期的政策
注目すべきは、東京都が自ら出資して不動産オーナーになることである。4本合計で100億円を出資する。これまでも家賃補助や、オーナーに低家賃で貸し出してもらうための政策はあったが、民間企業と共に出資し物件オーナーになる政策は画期的だ。
もっとも欧米では、このように民間資金や公的資金を集めて住宅を保有・運営する主体が低所得者だけでなく中間所得者向けにも手頃な家賃で住宅を供給する仕組みは一般化している。英国では地方自治体に代わり、ハウジング・アソシエーションという非営利団体が大量の住宅を保有しアフォーダブル住宅を供給している。運営費は家賃収入のほか国の補助金、債券発行、民間出資金の活用だ。
アメリカには住宅を安い家賃で貸すことを条件に、税額控除を与えるという制度がある。それを利用して企業(銀行、保険会社など)や不動産投資ファンドなどが低所得者から中間所得者向けの賃貸住宅を建設している。
自己責任の日本
一方日本では、「住宅取得は自己責任」という考え方が支配的である。その延長線上で賃貸住宅についても自己責任という雰囲気がある。
しかし欧米では住宅は社会インフラという考えが主流で、誰もが一定レベル以上の住宅に住む権利があるという思想が根底にある。日本は戦後の住宅不足を高度経済成長のもと、簡単に乗り越えてしまったことがあだとなり、いまだに住宅は市場任せの思想が強い。
とはいえ、今や住宅市場は止まらない価格の上昇で一般勤労者世帯には手が届かないという異常な様相を呈している。今こそ、まずは取り残された一般世帯のために賃貸市場のアフォーダブル化が必須政策となっている。今回の都の政策は数量的には限界があるものの、今後日本にもアフォーダブル住宅が普及していくかどうかの試金石となる。
日本人の持家志向は根強いが、その要因の一つには持家と比べた住環境レベルの低さがある。だがそれも無理のない家賃で心地よく住める賃貸住宅が供給されるようになれば意識は変わる。住宅は社会インフラという思想を育てるためにもアフォーダブル住宅導入の意義は大きい。
























