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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇228 始まった大量相続時代 家の構えに想うこと 住文化復興の好機

住宅新報 2026年6月9日 号 13面

連載: 彼方の空

総合
  • 彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇228 始まった大量相続時代 家の構えに想うこと 住文化復興の好機

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  • 玄関脇に設けられ、道行く人の目を楽しませる英国風花壇

    2 / 2玄関脇に設けられ、道行く人の目を楽しませる英国風花壇

 団塊世代(1947~49年生まれ)が全て後期高齢者入りをした2024年から2年が経った。いよいよ本格的な〝多死大量相続時代〟が始まったようだ。

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 筆者は毎朝、家の周囲を散歩しているが、このところまさに新築ラッシュの様相を呈している。空き家だった家が解体され工事が始まったり、土地を買い取った事業者が2区画に分けて分譲戸建てを建てたりと状況は様々だが、この街でも世代交代が急速に始まった観は否めない。

 ここ2、3カ月でざっと10軒の家が立ち上がった。広い敷地のまま建てられる大きい家もあれば、2区画に分けられた土地にコンパクトながら瀟洒な注文住宅が誕生したりしている。それら家々を見ていて気付いたことは、玄関が表通りから見えないようにした家が結構多いことだ。家族が出入りするところを見られたくないためだというが、玄関はその家の顔。通りからだと勝手口のようにしか見えない造りはいかがなものか(筆者の個人的見解)。

 大きい家に共通しているのは、通りからの視線を遮断する塀がぐるりと取り囲んでいることだ。塀があるなしでは家の格式が変わるのであるべきだと思うが、大事なのはその体裁である。通りからの視線を遮るにしても、そこにやや遠慮があるような施工・仕様が望ましい。あとから地域に入ってくる者としての礼儀というべきか、完全に遮断したら「あなたたちとは付き合いませんよ」と宣言しているようなものだ。

 そうした中、ぐるりと囲んだ板塀のために庭は通りからよくは見えないものの、玄関脇にはどう見ても通りを行く人のためとしか思えない一畳半ほどの花壇を設けている家がある(写真)。筆者はその英国風のきれいな花壇を見るのを毎朝の散歩の楽しみにさせてもらっている。

 道行く人の目を楽しませるという文化は日本における住文化の入り口のようなもの。そこから、親しくなった人を縁側に招いたり、応接間に通したりという文化がかつてはあったが、今はほとんど消滅してしまった。

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 家のかたち、外構美が社会を変えるということに今の日本人は気付いていない。社会とは同時代に生きる人たちの〝運命共同体〟であり、運命共同体としてつながっているという潜在意識が社会を支えている。その潜在意識に強く働きかけているのが、住む街の家々のかたちと家並みである。美しい家並みが人々の心を癒やし、住む人の人柄を偲ばせるようなものであれば、日本社会はみずみずしさを取り戻し、人々の絆も強くなる。戦後、日本人は「住まいとは何か」をあまり深く考えることもなく生きてきたが、大量に住まいの建て替えが始まろうとしている今こそ、その思索を深める好機である。

 戦後、住宅不足を背景に大量供給され続けた住宅は、1973年に全都道府県で住宅ストックが世帯数を上回ってからも景気後退期になると景気刺激策として捉えられ、依然として量的拡大が重視されてきた。そこに住文化が芽生える余地はなかったのだと思う。

 しかし、これからはその言い訳は許されない。衣食足りても住環境が豊かでなければ国民は真の幸福を享受できない。まさに今の日本がそういう状況である。グルメ番組の氾濫(はんらん)はどこか物悲しい。では住まいの豊かさとはなにか。それは既に述べたように、人々の共同体意識を支えるものである。意識は潜在意識を含め造形美に触発されて顕在化する。

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 日本の住まいは戦後の西洋式暮らしが浸透する中で、美しい畳、神聖な床の間、住民同士の縁を結ぶ縁側など伝統的な造形美を忘れ、〝日本的な暮らし〟という精神文化を今なお見失い続けている。筆者が住む平凡な住宅地にも押し寄せている新築ラッシュは、日本人が伝統的な住文化を取り戻す最後の機会となる。

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