住宅大手、施工力の内製化急ぐ AI時代、技能職の相対価値 大工不足・高齢化に備え社員職人を育成
住宅新報 2026年6月9日 号 1面
住宅業界で、施工力の確保は経営課題として重みを増している。野村総合研究所(NRI)の推計では、大工の人数は2020年の約30万人から40年には約13万人へと半分以下に減る。住宅着工戸数の減少を見込んでも、担い手の減少ペースが需要の縮小を上回るとの見方が強い。
外部の職方や協力会社に頼ってきた住宅メーカー各社は、施工体制の再構築に動く。社員として技能者を採用し、自社で育成する取り組みを広げる。品質や工期を安定させるだけでなく、中長期の成長を制約しかねない「施工力のボトルネック」を取り除く狙いがある。AIの進化も、技能職を巡る見方を変えつつある。生成AIの普及で事務、企画、分析などホワイトカラー職の一部業務が代替される可能性が指摘される一方、建設現場のように不規則な環境で段取りや現場判断を要する仕事は、AIやロボットへの置き換えが相対的に難しいとの評価が広がる。
技能職は人手不足という構造課題を抱える一方、技術革新の時代に「残る仕事」としての側面も帯び始めた。
若年層の職業観からは、課題も浮かぶ。日本建設業連合会によれば、建設業従事者に占める29歳以下の割合は24年時点で約12%にとどまる。ソニー生命保険が24年6月に全国の中高生1000人を対象に実施した調査では、男子高校生が将来なりたい職業の1位は「ITエンジニア・プログラマー」、2位は「公務員」、3位は「会社員」だった。女子高校生は1位が「保育士・幼稚園教諭」、2位「公務員」、3位「看護師」。少なくとも上位職種に大工や建設技能職は見当たらない。一方で、同調査では高校生の68.1%が「将来、マイホームをもちたい」と答えた。住まいへの関心は根強いが、その作り手を職業として選ぶ意識とはまだ距離がある。建築系の専門学校生や高専生は、住宅・建設各社にとって技能者や施工管理人材の有力な候補となるが、業界全体でみれば裾野の拡大は途上にある。
積水ハ、社員職人1千人へ
積水ハウスグループの施工会社、積水ハウス建設ホールディングスは、住宅建築を担う社員工「クラフター」の採用を23年から本格化した。24年3月末時点で360人だったクラフターを、33年4月時点で1000人に増やす計画だ。24年と25年はそれぞれ134人、26年は112人が入社し、3年連続で100人超を採用した。キャリア採用などを含め、4月1日時点の在籍数は683人に達した。
同社総務企画部の三宅寛部長は「10年、20年後の施工力を考えると、協力工事店も人を増やすことは難しく、高齢化で人が減っていく。工事ができなければ売り上げ拡大も見込めない」と話す。長期雇用のリスクを抱えながらも、成長の制約となる施工力を今のうちに確保する判断だ。
育成も拡充する。入社したクラフターは全国3カ所の教育訓練センター・訓練校に入り、半年間、基礎、建方(外装・躯体)、内装の技術を学ぶ。その後は現場で実践を積む。採用拡大に合わせ、講師役のトレーナーは23年度の19人から25年度には37人へほぼ倍増。訓練施設も増強した。現場で指導するチーフクラフターも今年4月に前年から19人増の92人とした。定着支援にもデジタルを活用する。新クラフターが毎月回答するアンケートを育成担当者が確認し、コンディション低下が見られる社員には速やかに面談などでフォローする。
処遇改善も進める。24年4月からチーフクラフターの賃金体系を見直し、30代の最大年収は約900万円に引き上げ、5人が年収およそ850万円という。現場で成果を出しやすい30代後半から40代を厚く処遇する設計で、成果手当や賞与の比率を高めて年収にメリハリをつけた。完全週休2日制で年間休日は最大129日。男性の育児休業取得率は100%としている。
住林、専門校を中核に
住友林業グループも、技能社員の採用・育成を強化する。中核を担うのが、1988年に千葉県四街道市で開校した住友林業建築技術専門校だ。現在は住友林業ホームエンジニアリングの入社1年目の技能社員と、協力工務店の入社1年目の社員が入校し、大工養成コースまたは左官養成コースで1年間の基礎教育を受ける。これまでに1800人以上の大工を育成した。
専門校は当初、直営工務店の職人教育を目的に設けた。近年は、技能者不足や高齢化への対応という役割が一段と大きい。入校者数はかつて年間30~40人程度だったが、大工不足への危機感から採用を拡大し、23年以降は年間80~90人を採用している。
こうした取り組みでグループの大工の平均年齢は協力店の大工より10歳ほど若い。人員面でも「ひっ迫した状況にはない」(住友林業住宅事業本部生産統括部の大木勝グループマネージャー)。
ただ、中長期の課題は残る。大木氏は「今採用できている人数で将来足りるのかは大きな課題。大工だけでなく、工事監督でも若手は枯渇し、採用では苦労している」と指摘する。今後は採用規模を更に広げる方針で、西日本に2校目となる専門校の設立も計画する。協力施工店の支援にも踏み込む。住友林業は24年7月、住宅事業の施工力確保に向け「施工パートナー推進センター」を稼働させた。協力施工店から事業承継や相続、人員確保など経営全般の相談を受けるほか、同社の建築現場で働きたい新規業者・職方を協力施工店へ紹介し、人員確保を後押しする。
パナ、多能工育成
パナソニックホームズは26年4月10日、建設子会社「パナソニックホームズ建設」を設立した。パナソニックホームズが手掛ける建設工事で、基礎から建方、大工、美装まで中核工程を請け負う。
目的の一つは施工管理の専門化だ。同社では監督・技術者が顧客管理と施工管理を同時に担っている。首都圏では施工管理の難度が高い中高層建物が増え、両業務を分ける必要性が高まった。新会社が施工管理に特化し、顧客管理はパナソニックホームズの営業・建設部門が担う体制にすることで、労働生産性と施工品質の向上を目指す。
もう一つが施工力の維持・拡大。パナソニックホームズには現在、社員工がいない。「社員工を中に取り入れていかないと将来の施工力が担保できない」(パナソニックホームズ建設の中村光良社長)と判断した。新会社で技能者を正社員として採用し、資格取得を支援する。多工種を担える多能工や現場を統括するリーダーも育てる。
中村社長は「担い手不足は他社同様に職人を社員化して施工力を高めなければ未来はない。施工はハウスメーカーのボトルネックになり、体制を持っていることが強みになる」と話す。同社の試算では、40年に自社内で大工が155人不足する。各年次で職人を10人ずつ採用し、40年には社員工100人体制を目指す。残る55人は既存の協力会社で採用できると見込む。技術者も30年に40人体制とする。
新築縮小、施工力が選別軸 もっとも、各社が社員工の採用を拡大できていることは、若年層から一定の応募があることを示す。背景には、処遇改善や休日確保といった働き方改革に加え、AIに代替されにくい職業として技能職を見直す動きもある。裾野を広げるには、専門学校や高専、工業高校に加え、一般の高校生にも現場の将来性を示す発信が欠かせない。
事業環境は量の拡大を前提にしにくくなる。NRIは新設住宅着工戸数が40年度に61万戸まで減る一方、広義のリフォーム市場は9.2兆円に伸びると予測する。新築は都市部の貸家や中高層、地方の選別受注に軸足が移り、ストック改修やアフターサービスを含む長期接点が収益源になりやすい。施工力は単なる下請け網ではなく、受注可能枠、工期、粗利を左右する経営資源となる。施工力を自社の競争力として磨き、若者に選ばれる仕事として発信できるか。住宅大手の取り組みは、縮む市場で勝ち残るための試金石となる。
























