酒場遺産 ▶134 高田馬場 鳥やす 今なお一串80円の価格設定
住宅新報 2026年5月26日 号 11面
連載: 酒場遺産

先に立ち寄った店で「さかえ通りに良店なし」との評を聞いたが、実際に訪ねた「鳥やす 本店」は、決して悪くない一軒であった。さかえ通りの路地奥に佇む同店は、1967年(昭和42年)の創業である。木造2階建ての古風で重厚な建築は、いかにも老舗らしい風格を漂わせている。赤提灯の掲げられた入口を抜け、右手にある数席のカウンターの端に腰を下ろした。背後にはテーブル席が並び、2階席を含めればかなりの客容を誇るようだ。かつて学生街・高田馬場で、一串60円という破格値で焼き鳥を供し続けてきた歴史を持つが、現在もなお一律80円からという価格設定を維持しているのには驚かされる。そして何より美味い。酒は京都伏見の「富翁」を熱燗でいただく。焼き鳥の骨太な味わいは、燗酒と相性が良い。お通しには、うずらの生卵が落とされた山盛りの「大おろし」が出される。焼き鳥を食べる合間にこれで口直しをすると、鶏の脂がほどよく中和される。
注文した期間限定の「正肉塩麹漬け」と「はつ」は、いずれも深みのある美味しさであった。定番の串焼きは、レバー、砂肝、正肉、はつ、ぼんじり、つくね、手羽先に至るまで、どれも大ぶりでジューシーな仕上がりである。柚子胡椒や辛子味噌を添えた正肉焼も完成度が高い。さらに希少な「ほうでん」あるいは「蛙」といった特選串も品書きに並ぶ。鶏の旨味が凝縮されたこの店独自の「煮込み」は、常連客が必ずといっていいほど注文する看板料理だ。日も暮れて、店内は段々と活気を帯びてきた。熱燗と焼き鳥の至福の時間だ。(似内志朗)






















