彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇226 幸福を呼ぶ住まい 40年変わらぬ信念 鈴木静雄氏の経営哲学
住宅新報 2026年5月26日 号 11面
連載: 彼方の空
1億円のマンションは5000万円のマンションの2倍幸福か。
――そんなことは断定できない。何が幸福かは人それぞれだし、住む人の感性によっても変わってくる。
その通りだが、ではマンションを選ぶとき、人は自分にとっての幸福とは何か、感性とは何かについて考えているだろうか。
この2つの観点からマンションづくりに取り組んできたリブラン創業者の鈴木静雄氏は40年以上も前、テレビ局の取材に対し「個性のかけらもない羊羹を切ったような箱型マンションはコンクリートでできたただのガラクタ」と酷評して話題になった。
その思想は今も変わらない。「戸建てであれ、マンションであれ、住まいはそこで幸せな時間を過ごし、人生を楽しむ場所となって初めて価値をもつ。長い時間をかけて払う住宅ローンも、その長く続く幸せの対価として納得できてこそ働く甲斐がある」と話す。
更にこうも語る。「そういう住まいを手に入れるためには、まず買い手が自分の価値観をしっかりと持ち、その価値観にマッチした住まいを選ぶことが肝要。同時に住まいの作り手(事業者)には『この家に住むと、こういう暮らしが手に入ります』と明確に主張することが求められている」と。
つまり、住まいを作るプロとして「ここが大切」という価値観や思想を発信する売り手と、「こういうものを待っていた」と共鳴する買い手が出会ってこそ、真に幸福な住まいの売買になるというのが鈴木氏の変わらぬ信念である。
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40年前から変わらず持ち続けてきたその思いが存分に伝わるシンポジウム「思想なきマンションは家族を滅ぼし、地域を分断し、やがて日本を滅ぼす」が5月13日、東京・池袋のホテルメトロポリタンで開かれた。
現代にあって住まいは一生に一度とか人生最大の買い物とか言われ耐久消費財的色合いが濃いが、本来住まいは住み手の個性や感性を表現するものでなければ〝文化〟の域には達しない。
そのもどかしさから一般財団法人ひと・住文化研究所を22年11月に立ち上げた鈴木氏は以来、人が幸せになる住まいと業界の在り方について情報発信に努めてきた。同研究所主催の今回のシンポジウムにも100人以上の業界関係者が集まり熱心に耳を傾けた。
人間が生きていく上で欠かせない「衣食住」という生活習慣の中で「住」だけが未だに〝文化〟の域に達していないのはなぜか。それは、住まいの作り手にも買い手にも住まいを感性で捉える視点が欠けているからだとの主張が参加者の賛同を得たようだ。
これまで業界は、住まいは〝性能〟と〝機能〟が全てという考え方に支配され、住宅を感性として捉えることはなかった。しかし、〝人生100年時代〟を迎えた今が住宅産業は人間の感性や心に目を向けた人間産業へと大きく変わるチャンスである。
人生100年時代を心豊かな社会にするためには、生活の基盤となる住まいが大きな鍵を握っていることは明らかだ。企業が利益優先のもとに売り出す住まいは決して国民を幸せにはしないだろう。その「自明の理」に社会が気付けば、我が国の住宅不動産業が人間産業として生まれ変わり、日本社会の再生につながっていく。シンポジウムはそう語っていたように思う。
鈴木氏はこうも語る。
「手に入れた家で幸せに暮らす人はその土地に愛着を持ち、たくさんの友だちをつくるだろう。行きつけの店もできるだろうし、習いごとを始めるかもしれない。そうした幸せの連鎖が活気ある社会を生み、良い街づくりにつながっていく」
鈴木氏の経営哲学は近江商人の「三方良し」である。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」を常に意識して商売をすれば、自ずと会社は繫栄し社会から高く評価される。
























