酒場遺産 ▶133 高田馬場 とん八 26年3月21日をもちまして閉店
住宅新報 2026年5月19日 号 11面
連載: 酒場遺産

以前から気になっていた居酒屋「とん八」を訪ねた。高田馬場・さかえ通りから路地に入った場所に位置する、昭和の面影を色濃く残す、もつ焼き看板の酒場である。17時過ぎに暖簾をくぐったが、十数席のカウンターと小上がりからなる手狭な店内は、既に客でいっぱいだった。厨房で炭火を操り、刺身から炒め物までこなすご主人と、明るく愛嬌のある接客で迎える女将さんの二人三脚で長年守られてきた。キリンラガーの中瓶、煮込み、新竹の子とふきの煮物を注文したが、いずれも薄味の洗練された仕上がりであった。日本酒の八重寿(400円)や純米大吟醸・惣花(830円)を始め、麦酒、焼酎と一通りそろう。料理は、まぐろや甲いかの刺身、鶏肉のにんにくこしょう焼き、目鯛のにんにく醤油漬け、女将さん手づくりのポテトサラダなどが400円から500円前後。低温調理のレバ刺(700円)や、各110円の串焼き(タン・ハツ・カシラ・シロ・レバ)など、厳選された品が手頃な価格でいただける。
カウンターで麦酒を飲んでいると、右隣の客と言葉を交わす機会があった。「いつもこれほど混んでいるのですか」と訊けば、彼は壁の貼り紙を指差し、「今週末で閉めてしまうので、常連が駆けつけているんです」と言う。そこには「2026年3月21日をもちまして閉店させていただきます」とあった。53年続いた店を閉じる事情は聞かなかったが、左隣の常連客は「居酒屋の良心のようなこの店がなくなるのは寂しい。さかえ通りはチェーン店ばかりになり、古い店も随分と値上がりしてしまった」と惜しんでいた。名酒場が惜しまれつつ消えていく。その最後の一週間に偶然にも立ち会えたのは、幸運というべきだろう。 (似内志朗)






















