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酒場遺産 ▶132 高田馬場 清瀧 運営主体は慶応元年に創業

住宅新報 2026年5月12日 号 15面

連載: 酒場遺産

総合
酒場遺産 ▶132 高田馬場 清瀧 運営主体は慶応元年に創業

 仕事が思いのほか早く片付いたので、まだ陽の高いうちから高田馬場へと足を向けた。遡れば四十数年も前、この界隈の大学で建築を学んでいた若き日の僕は、同級の友人たちと「さかえ通り」周辺の酒場をうろついたものだ。記憶の中心にあるのが、さかえ通り「清龍」である。現在の看板や内装は見違えるほど綺麗に整えられているが、かつての清龍といえば学生コンパが連夜繰り広げられる、いかにも年季の入ったオンボロ酒場だった。泥酔し路上へ崩れ落ちることもたびたびだった。懐かしい日々だ。

 数十年ぶりにその暖簾を潜ると、まだ十六時を回ったばかりだというのに、広いフロアはすでにほぼ満席の活気に満ちていた。席の間には、かつての喧騒を遠ざけるようなコロナ禍の名残だろうか、無機質なプラスチックの仕切りが設置されている。客のほとんどは年配のひとり客だが、皆どこか手持ち無沙汰な様子で、盃を傾けながら大画面のテレビにじっと見入っている。この気だるくも穏やかな空気感が、午後の酒には妙にしっくりと馴染む。店の背景を辿れば、運営主体は慶応元年(1865年)に創業した老舗・清龍酒造(埼玉県蓮田市)であり、本格的に酒場として暖簾を掲げたのは七十年代半ばのことだという。「清瀧・蔵元の店」と銘打つだけあり、品書きには普通酒をはじめ、原酒、本醸造、純米酒、純米辛口、大吟醸、さらに生酛造りに至るまでが整然と並ぶ。

 特筆すべきはその価格で、普通酒一杯二百五十円からという設定は驚くほど安価だ。メニュー構成は、かつての「学生コンパの聖地」としての性格を色濃く継承しており、その品揃えは豊富だ。レモンサワーは六種類を数え、ボトルワインも千五百円からと手頃さが嬉しい。季節の味覚も巧みに取り入れられており、今春は「桜海老と新玉葱のかき揚げ」や「菜の花のからし和え」が四百円前後で供されていた。海鮮類の質も高く、三点盛九百八十円や五点盛千四百八十円といった価格設定を含め、酒飲みにとってはありがたい。あの記憶の中のオンボロ居酒屋が、今や真新しいファサードを誇る地下一階・地上三階のビルとなった。嬉しくも、少し淋しくもある。(似内志朗)

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