酒場遺産 ▶131 上野 れんこん 「れんこんづくしコース」
住宅新報 2026年4月28日 号 11面
連載: 酒場遺産

先日、「アーバンマタギの会」という、食と酒と話を愉しむ会で、上野駅にほど近い蓮根専門店「上野れんこん」を訪ねた。未だ30年足らずの歴史ではあるが、現女将・宮内桂子氏の父(先代)がこの地で前身となる居酒屋を営んでおり、1998年に現在の三階建ての店を構え、蓮根専門店として再出発したのだという。建物自体は鉄筋コンクリート造であるが、店内を特徴づける重厚な梁や柱は、水沢など岩手県南部の築150〜200年の古民家を解体して運ばれたものだ。都市の不燃化という現代の要請の中に、東北の厳しい風雪を耐え抜いた古材が呼吸している。
蓮根(レンコン)といえば、店からほど近い不忍池が、初夏から池一面を覆う美しい蓮の花で有名だ。しかし、この店の食材となる蓮根は、主に小美玉市など霞ヶ浦周辺(茨城県)の契約農家から直送される。専門店を謳うだけあり、その料理は実に多彩だ。創業時は数品だったメニューも、今や20 種類以上。切る、叩く、茹でる、揚げるといった調理法の妙で、シャキシャキ、ねっとり、ホクホクと多様な食感を生んでいる。今回の会では「今夜は徹底してレンコン尽くしになろう」と、その名も「れんこんづくしコース」を頼んだ。蓮根カナッペと辛し蓮根から始まり、サラダ、鴨との治部煮、大山鶏の北京ダック風、海老のはさみ揚げ、ミニハッシュドレンコン、そして〆の「れんこんおこげの餡かけ」に至るまで、文字通りの徹底ぶりである。日本酒は「明鏡止水」や「白瀑・ど辛」、「寫楽」に「黒龍」と、蓮根の土の香りに負けない力強い銘柄が脇を固める。
ほろ酔いで店を出て数分歩くと、夜の不忍池に出た。蓮は実に不思議な生物だ。池からほど近い湯島に住んでいることもあり、私は春夏秋冬、この池の蓮の変遷を観察している。春に水面から小さな芽を出した蓮は、あっという間に緑の葉で水面を覆い尽くす。初夏には大きな桃色の蕾が垂直に立ち上がり、水面がほとんど見えなくなるほどの成長ぶりだ。夏に一斉に開花するが、秋口ともなれば葉は茶色味を帯び、シャワーヘッドのような濃茶の実を残して、茎は折れて水没していく。そして冬には、まるで何もなかったような水面に戻るのだ。毎年繰り返される、そのあまりに強い繁殖力と変化の速さには、ある種の恐ろしささえ感じる。古くから生者必滅の象徴として語られる「蓮」と、あの摩訶不思議な形をした「蓮根」が、どうも自分の中で結びつかずにいる。(似内志朗)






















