古民家宿の物語 日本全国リノベーション 132 柚子の家(上) 農業の挑戦から、地域との関わりと宿づくりへ
住宅新報 2026年4月14日 号 11面

当時の建物としても規模が大きい建物だ。庄屋をしていたこともあったという
原点は農業を伝える場
神奈川県相模原市藤野地区の山間に佇む古民家宿「柚子の家」。その成り立ちは、単なる宿泊事業とは異なり、「農業を起点とした地域との関係づくり」にある。運営を手がける藤野倶楽部は、代表の桑原敏勝さんが約20年前、「自ら農業をしたい」という思いを原点に無農薬による農業に取り組み始めたが、現実は厳しかった。収益が上がらず、「農業だけでは食べていけない」という壁に直面した。
そこで発想を転換した。生産することだけでなく、「農業の価値を都市の人に伝えること」に活路を見出したのである。農業体験の受け入れや、食を通じた理解の促進へと軸足を移し、「農業を伝える」こと自体を事業として成立させる方向へ舵を切った。
藤野に広がる人脈
こうした流れの中、約15年前にレストラン事業「百笑の台所」をスタートさせた。提供するのは、自ら育てた無農薬野菜を中心とした料理である。建物もまた、自分たちの手で建て上げたものであり、農業と食、そして場づくりが一体となった実践だった。更に、食堂のすぐ下にはロッジも整備され、訪れた人が滞在しながら農や食を体験できる環境が整えられていった。
こうした活動は徐々に人の流れを生み、藤野という地域に対する関心を高めていった。同時に、藤野のまちづくりにも積極的に関わるようになる。単なる観光地化ではなく、「住みたいまち」を目指すという思想のもと、地域の人々と連携しながら文化的な土壌を育てていった。
魅力的な古民家と出会う
そうした活動の中で広がった人脈が新たな展開をもたらす。地域の空き家情報が集まり、「使われていない古民家がある」という話が持ち込まれたのだ。これが「柚子の家」との出会いにつながる。紹介を受けたのは約10年前で、地域に根ざした関係性の中から生まれた機会だった。
農業、食、地域との関係づくりを軸に展開してきた活動は、やがて「宿泊」という形へと発展する。単に泊まる場所ではなく、地域を体感する入口としての宿。その思想は、農業から始まった取り組みの延長線上にある。
宿=柚子の家
住所=相模原市緑区牧野
ウリ=山奥の景観を都心からアクセス良好な藤野で満喫






















