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酒場遺産 ▶128 堀切 ふつ子 酒場放浪記 吉田類さんお気に入り

住宅新報 2026年4月7日 号 11面

連載: 酒場遺産

総合
酒場遺産 ▶128 堀切 ふつ子 酒場放浪記 吉田類さんお気に入り

 大学時代の先輩が設計した小さなオフィスと住宅の建築内覧会を見て回り、堀切菖蒲園駅へと帰る途中、住宅街の曲がりくねった路地にちょっと気になる居酒屋を見つけた。「ふつ子」とは女将の名前だろうか。まだ日が高いが、「居酒屋」と書かれた濃紺の暖簾をくぐった。10席ほどのコの字カウンターのみの小さな店で、老女将がちんまりと一人でテレビを見ていた。

 日曜の早い時間ということもあり、客は僕ひとりだ。壁には手書きの文字で「大サービス」「ふつ子おまかせサービス」などと書かれている。キンキ煮付1380円、真鯵姿づくり680円、鰻かば焼き980円、めじ鮪刺身780円、はまぐり酒蒸し680円、刺身三点盛り合わせ850円、ほや姿造り580円、岩手産若鳥大蒜炒め450円と手頃だ。ビールを傾けつついただいた鰻の蒲焼きは、値段にしては美味しかった。常連客が来るまでの小一時間、女将といろいろと話をした。

 「ふつ子」は創業31年。女将が50歳のとき、商売の経験もなく始めたという。周りの人からは「1~2年で潰れるよ」と言われたが、今年で32年を迎えることができた。隅田川花火大会の日が女将の82回目の誕生日だった。以前は店に立つこともあったというサラリーマンだったご主人の写真を見せてもらったが、長身のハンサムで女将も自慢だったらしい。そのご主人も認知症が進み、今は川向うの介護施設に入っているという。最近は体力が続かず、千住の青果市場に自転車で買い出しに行くものの、何度か転倒してひどい怪我を負ったこともあるらしい。

 女将は「『酒場放浪記』の吉田類さんがこの店を気に入っていて、自分としては早く店を閉じたいが、再放送を5~6回もしてもらって、なかなか辞められないのよ」と嬉しそうに言う。「吉田類さんってどんな人でしたか」と訊けば、「普通のおじさんよ。私も普通のおばさんだからね」とニヤリと笑う。その笑顔の意味を、どう捉えてよいのか分からなかったが。(似内志朗)

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