社説 不動産業の次の責任 暮らしの終盤支えよ
住宅新報 2026年3月24日 号 2面
連載: 社説「住宅新報の提言」

この数年、業界周辺でいくつかの新たな動きが起きた。所有者に代わって不動産を引き取る事業の台頭、信託を活用した資産整理の広がり、高齢者や外国人を支える居住支援の実践。いずれも個別の動きに見えるが、その底流には共通する問いがある。それは、制度と現場のすき間を、誰がどのように埋めるのかという問いだ。
不動産業はこれまで、「入り口」を磨いてきた。住宅を買う、借りる、建てる。情報の整備、価格査定の高度化、金融商品の多様化。流通の仕組みは洗練され、取引の透明性も高まった。入り口の設計は、相応に成熟してきたと言えるだろう。
しかし、暮らしには必ず「出口」がある。高齢化の進展、単身世帯の増加、相続の複雑化。住み替え、売却、資産の整理、そして死後の手続き。住まいは取得や利用の段階だけで完結するものではない。所有と居住の終盤に何が起きるのか。その局面をどこまで業界は視野に入れてきたか。人口減少と高齢化が進む社会では、住まいを巡る問題はむしろ取得後に顕在化する場合が多い。今後は、出口の設計そのものが市場の安定を左右する重要なテーマになっていく。
引取業の広がりは、出口で行き場を失った不動産の存在を映す。信託の活用は、所有者の思いと法制度の間に横たわる溝を示す。居住支援の現場は、住まいの確保が市場原理だけでは完結しないことを教える。いずれも市場の外側の話ではない。むしろ市場が成熟したからこそ顕在化した課題だ。
ここで重要なのは、これらを「新ビジネス」として捉えるか、「社会的責任」として受け止めるかである。出口の整備は、収益性だけで測れない領域を含む。だが同時に、仕組みとして持続させるには事業としての視点も欠かせない。採算だけで判断すれば対応できない領域が残り、理念だけに依存すれば取り組みは広がらない。両者の間に横たわる課題をどう乗り越えるかが、いま業界に突きつけられているテーマである。
制度と現場の間には、なお距離がある。国が掲げる施策と地域で起きる具体的な困難。その間をつなぐのは、法律の条文でも理念のスローガンでもなく、現場での実務だ。例えば、高齢者や外国人の住まい確保、空き家の利活用、相続を見据えた資産整理は、地域の事情や個々の事情によって対応が大きく異なる。こうした現場の知見を制度にどう反映していくか。その橋渡し役を担うのも、業界の重要な役割だ。誰が担い、どこまで責任を負うのか。その全体像を、業界自らが議論し、示していく必要がある。
入り口から出口へ。取引から伴走へ。不動産業の役割は、静かに変わり始めている。年度の節目にあたり、問い直したい。住まいを扱うとは、暮らしのどこまでを引き受けることなのか。その輪郭を描くことこそ、次の時代に向けた業界の責任ではないか。


























