不動産取引現場での意外な誤解 賃貸編252 競落人に対抗できない入居者には立退料なし?
住宅新報 2026年3月17日 号 11面
連載: 不動産取引現場での意外な誤解

Q.前回説明のあった「割合法」による立退料というのは、競落人に対抗できる入居者の権利を「借家権」として認めた上での算定になるということでしょうか。
A.そういうことです。したがって、同じ競売物件であっても、すべての物件が競落人に対抗できるわけではありませんので、例えば、入居者の大半が競落人に対抗できない物件であれば、立退料の総額を大きく抑えることができるということです。
Q.ということは、逆に言えば、競落人に対抗できない入居者に対しては「立退料」は支払わなくてもよいということですか。
A.そういうことです。そのような入居者に対しては、建物の明渡しまで6カ月間の猶予を与えるだけで「立退料なし」で明渡しをしてもらうことができるということです(民法395条(1))。
Q.しかし、6カ月経っても明渡しをしない入居者もいるのではありませんか。
A.いると思います。したがって、そのような入居者のために「引渡命令」の制度(民事執行法83条(1))があるということは以前(第248回)にもお話しましたが、そのような裁判所の手を借りずに円満に明渡しをしてもらう方法として、例えば、即時あるいは早期退出者には一定の立退料を支払うということもあると思います。
Q.その場合の立退料とはどういうものなのですか。
A.それは、一般に「実費・損失方式」による立退料と呼ばれているもので、居住用の物件はもとより、事業用の物件であっても、例えば店舗の改装費とか所得補償といったいわゆる「営業権」に関するものを除けば、それ以外の部分ではこの「実費・損失方式」による立退料で対応できるというものです。
具体的には、いわゆる引越し代などの移転費用と移転後の賃料と現行賃料との差額等が対象になるという考え方ですから(東京高判平成12年12月14日)、前回お話した競落人に対抗できる入居者に支払う立退料とは内容が異なるということで、裁判所も、「正当の事由」を補完するための立退料の算定においては、原則として「借家権方式」による立退料は採用しない傾向にあります(東京高判平成12年12月14日、東京地判平成23年9月13日)。
渡邊不動産取引法実務研究所 代表 渡邊 秀男






















