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酒場遺産 ▶125 浅草橋 lucite café & bar  柳橋の懐の深さに驚く

住宅新報 2026年3月17日 号 11面

連載: 酒場遺産

総合
酒場遺産 ▶125 浅草橋 lucite café & bar  柳橋の懐の深さに驚く

 浅草橋駅近くからほど近い、かつて政財界や芸能界の人々に愛された花街「柳橋」は、今は普通の住宅街だが、隅田川から分岐した水路には屋形船が繋がれ、花街であった独特の風情をどことなく感じさせるエリアでもある。隅田川の川沿いの遊歩道から堤防を上がり柳橋の住宅地を歩くと、日本家屋を改装したギャラリー兼カフェ「lucite café & bar」の小さな看板を見つけた。門から玄関までの狭い石畳のアプローチを進み、料亭のような玄関の引戸を開けて靴を脱いだ。

 この建物は、昭和期の流行歌手・江戸小唄の名手として知られた「市丸」の旧私邸(1950年築)という。市丸は芸妓で、江戸小唄で人気を博した。戦後の下町文化を象徴する歌い手としても知られた。店主の米山明子さんは柳橋花柳界の最後の料亭と言われた「いな垣」の孫娘に当たる。かつての女将の祖母は市丸と親しく、1997年に市丸が他界した際、「柳橋の記憶を消したくない」という想いから隣地の市丸邸を買い取り、孫娘である米山明子氏が2001年にギャラリー(後にカフェ&バー)として再生した。

 玄関から廊下を右手に進み、急な階段を上がると、室内の光を落とした夜景の美しい広い和室に出る。ガラス越しに隅田川の水面が光り、左手にはライトアップされた東京スカイツリー、右手にはゆっくりと光の色が変わるアーチ式鉄橋があり、総武線の黄色い車両が頻繁に通過する。室内はソファ席、座卓、窓際のカウンター席など、来訪客が思い思いに過ごすことのできる居心地よい場となっている。外部のテラス席は、簡素なテーブルと椅子が置かれる極上のスペースだ。

 サイフォンで淹れる珈琲はとても美味しいが、酒類も豊富に揃える酒場でもある。メニューを見れば、珈琲、ロイヤルミルクティー、加賀棒茶など600~800円、酒類は生ビール、ワイン、種々のウィスキー、ハイボール、ジン、ウォッカ、ラム、ハイボールなどが600~1400円程度と手頃だ。有機系のボトルワインは4500円、アルコール類は500円のチャージがつく。つまみは、アンチョビポテトの生ハムボール、豆苗の水餃子、鶏レバーのソース煮、合鴨の燻製、砂肝の黒胡椒炒め、エマダツィ、キノコのアヒージョ、ホタルイカの丸干し、しらすガーリックオイルご飯などが300~500円、甘栗ショートパスタ、手作りケチャップナポリタンなども揃える。こんな奇跡のような空間を内包する柳橋の懐の深さに驚く。(似内志朗)

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