不動産流通推進センター 坂本久理事長に聞く リスキリングが求められる時代へ 激変する時代に対応する〝学び〟の力
住宅新報 2026年2月24日 号 9面
専門性を高め地域貢献に期待 世代を超えた新たな可能性
――不動産ビジネスを取り巻く事業環境は、頻繁に改正される法律に左右されやすいものですが、どのような対応を心掛けておくべきでしょうか。
「宅地建物取引士の資格更新は5年に1度であり、その際に法定講習を受講することが義務付けられている。頻発に法が改正され、近年はそのスピードが目覚ましく、5年に1度の学習頻度では、最新の法令や実務上の留意点を完全にアップデートし続けることは困難になってきた。ハザードマップでの説明義務化、相続登記の義務化、さらには省エネ性能表示の努力義務化など、社会課題に直結するルール変更が続いている。プロとして消費者の信頼に応え、コンプライアンスを順守し続けるためには、法定講習を待つのではなく、自ら知識をブラッシュアップし続けるリスキリングが不可欠だ。
業界に3つの軸
リスキリングが重視される理由として3つの軸が存在している。第1に前述の法改正への適応、第2にDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進である。DXの本質は、単なるITツールの導入ではなく、デジタルを使って『顧客体験』と『業務効率』をどのように変革するか、変革できるかだ。人工知能(AI)の進展とともにその活用も著しい。
国土交通省の『不動産ライブラリ』をはじめ、オープンデータの提供が飛躍的に進んでおり、この膨大なデータを使いこなし、精度の高い重要事項説明や物件査定に反映させることは、もはや不動産取引において必須のスキルと言えよう。IT重説や電子契約の普及は顧客の利便性を高めるだけでなく、移動時間や書類管理のコストを大幅に削減する。AIが契約書のチェックや価格査定の補助を行う時代において、人間は『そのデータから何を読み取り、顧客にどのような価値を提案するか』という、より高度な判断に特化しなければならない。このシフトが不動産DXの肝であり、リスキリングの主要なテーマとなる。
第3に挙げたいことは、人口減少下における人材育成と確保だ。他業界との人材獲得競争が激化する中で、選ばれる業界になるには、『古くてアナログな業界』というイメージを払拭しなければならない。教育制度を充実させてDXによる業務効率化を実現することは、残業削減や柔軟な働き方といった『働き方改革』に直結する。
若い世代にとっては、自身のキャリアアップが実感でき、かつスマートに働ける環境が整っていることは、入社を決める大きなインセンティブになる。
現在地を可視化
多様な人材活用も重要である。例えば、熟練した知識を持つシニア層のリスキリングだ。彼らが最新のITスキルを習得することで、豊富な経験に基づいた不動産コンサルティングや、若手社員への指導役として活躍し続けるスキームを構築できる。
いったん業界を離れたアルムナイ(退職者)を再び迎え入れる際も、最新の法改正やデジタル環境に即応するためのリスキリングが、スムーズな復帰への道となるだろう」
――リスキリング協議会の26年度の取り組みと、中長期的な視点からの取り組むべきことは何でしょうか。
「現在、当協議会が最優先で取り組んでいるのは、業界全体の『現在地の可視化』である。(一財)不動産適正取引推進機構によれば、『令和6年度末 宅建業者と宅地建物取引士の統計』で全国の宅建事業者の数は13万2291に上り、そのうち84.2%の11万1309事業者が従業者数5人未満の小規模な法人である。個社ごとに教育カリキュラムを組むのは容易ではないと想像するのは難しいことではないだろう。
リスキリングをメインストリームに
まずは、参画する各団体が会員に対してアンケート調査を実施し、リスキリングに関する現場の課題やニーズを抽出することから始める。そして『リスキリングマップ』の作成を進めていく。各団体が個別に実施している多様な研修プログラムの位置づけが明確になり、初任者から上級者まで、効率的かつ網羅的な学びの指針を提供することを目指す。
中長期的な視点からは、リスキリングを単なる『個人の努力』にとどめさせないことであり、リスキリングを不動産業界のメインストリームにするための仕掛けが必要だ。例えば『リスキリング推進月間』を設定して集中的な啓発活動を行ったり、一定の成果を収めた企業や個人を認証したりする制度なども検討の俎上(そじょう)に載るだろう。『学び続けることが当たり前』という文化が業界全体に根付くよう、業界一体となって支援体制を強固にしていく」
地域に根ざす〝よろず屋〟へ
――人口減少が本格化する中で地方創生、地方活性化が叫ばれて久しいですが、そこでリスキリングが果たす役割みたいなものはありますか。
「国土交通省が24年6月に発表した『不動産業による空き家対策推進プログラム』の一環として立ち上げた『地域価値共創プラットフォーム』において、不動産業者は地域を支える中心的な存在となることが期待されている。
地方において、不動産業者の役割は『物件の仲介』についての豊富なノウハウを基にしながら、より幅広い関心をもって空き家問題や所有者不明土地の解消、低未利用地の活用といった課題解決から地域に深くコミットする姿勢が求められている。このような業務には、民法や行政法規の高度な知識、そして自治体や他業種との連携スキルが必要となる。
リスキリングによって専門性を高めた『地域密着のプロ』が、『まちづくりのコーディネーター』へと進化すること。それこそが、地方活性化における最大の貢献となる。地域ごとに抱える課題は異なるが、その課題解決に向けた具体的な目標を設定し、どのように実行に移すか。その知恵を養う場こそがリスキリングであると思う。
もっとも、リスキリングという言葉は、〝中高年の学び直し〟を想像しがちだが、そうではない。若者の発想は若いほど豊かで、中高年が思いもよらないアイデアを出してくる。その新しい発想を生むためにリスキリングを活用してもらいたい。アイデア出しに磨きがかかると思う。引き出しの豊富な人、感性が豊かな人は、勉強ばかりではなく遊び方に長けている人は少なくない。机上での知識習得にとどまらず、体験・交流などを通じて知識習得は多角的なアプローチをすべきだろう」
不動産業の本質は地域密着
――住宅・不動産業界の未来をどのように展望、期待をしますか。
「不動産業の本質は、いつの時代も地域密着にある。その揺るぎない土台の上に、最新のデジタル技術とアップデートされた専門知識を積み重ねていくことで、業界の未来はより明るいものになると確信している。特に地域の不動産事業者は〝よろず屋〟さん的な位置づけが大きい。〝よろず屋〟、私は良い言葉だと思っている。
地域には、それぞれ中心的な人物が存在するが、家族経営的な不動産事業者は、地元のお祭りはもとより、街づくりにも積極的にかかわってくる。ただ、今後は若い人をどれだけ取り込めるか。年配ばかりだと地域興しは難しいものだ。地方の今のウイークポイントになっている。
そうした中で、不動産業の役割としては、住まいの仲介という枠を超え、相続不動産への適切な対応や、地域の魅力を再発見して価値を高める取り組みへと確実に広がっている。行政や建築、金融、ITといった他業種との境界を越えて連携を深めることで、『まちの未来をつくる担い手』としての責務を果たしていかなければならない。
リスキリングは、そのためのパスポートである。変化を避けるのではなく、変化を自らの成長の糧として楽しみ、学び続ける。そのような活気あるプロフェッショナルたちが集う業界へと進化していくことを、強く期待する。これからも一人ひとりの『学び』を支え、不動産業界のさらなる飛躍を目指していく」

























