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酒場遺産 ▶119 新宿歌舞伎町 すゞや 闇市時代に誕生、とんかつ専門店

住宅新報 2026年1月27日 号 13面

連載: 酒場遺産

総合
酒場遺産 ▶119 新宿歌舞伎町 すゞや 闇市時代に誕生、とんかつ専門店

 新宿歌舞伎町「すゞや」は、靖国通りに面したSUZUYAビル5階の老舗とんかつ屋で、数年前に友人Nさんに紹介されてから、新宿に来るとたまに寄る。目の前のアルペンスキービルの電光掲示板が強烈な光を放ち、フルハイトガラスを通して店内を光で満たす。窓際のカウンター席は、眼下に新宿の街の人の群れと絶え間なく走る列車を見下ろす特等席だ。いつも頼むのは瓶ビールととんかつ茶づけである。とんかつに茹でたザク切りのキャベツがたっぷり乗っており、途中から茶づけにすると2度楽しめる。創業当時の2階建ての店のモノクロ写真が、壁にもかかっているが、2016年に11階建てのSUZUYAビルとして建て替えられたという。5階の「すゞや」はコンパクトだが品のある良い空間設計だ。他の階には飲食テナントが入っている。現在の「すゞや」は、恐らくビルオーナーとしての経営もしているのだろう。店のインテリアは新しいが、接客は丁寧で老舗の風格を感じさせる。

 未だ戦後混乱期が続く1954(昭和29)年に闇市や露店が立ち並ぶ活気と混沌が入り混じった歌舞伎町に、とんかつ専門店「すずや」は誕生した。民芸好きだった創業者の鈴木喜一郎・華子夫妻が全国で収集した陶器などを食器として用い、「民芸茶房すゞや」が生まれたという。棟方志功デザインの分厚いメニューには、この店の歩んだ歴史が書かれている。「創業当時から民芸のアドバイスをいただいていた「いずみ工芸店」のご主人が、ある日連れて来てくださったのが版画家棟方志功氏でした。

 すゞやを気に入ってくださった棟方先生は、すゞやのために版画や肉筆画を描いてくださいました。さらに、柳宗悦氏、 濱田庄司氏、 芹沢銈介氏、池田三四郎氏、バーナード・リーチ氏など、すゞやを訪れた作家の先生方の思考やアドバイスが店づくりへと活かされ、洋食店、とんかつ専門店と続く、今日のすゞやにつながっていきました」とある。種々のとんかつ定食や揚げ物を中心とする一品料理も豊富だ。酒も麦酒、焼酎、日本酒(辛丹波、幻の瀧など)、ワイン、ハイボールなどを揃える。今夜はガラス面に向かうカウンター席で、眼下の歌舞伎町の夜景を楽しみつつ、棟方志功の愛した「とんかつ茶づけ」と辛丹波をいただいた。(似内志朗)

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