古民家宿の物語 日本全国リノベーション 124 木村邸 とりや (中) あるものを生かして記憶を残す空間づくり
住宅新報 2026年1月27日 号 13面

昔ながらの居間をそのまま再現している
祖父母の暮らしを再現
後年に増築された浴室周辺は劣化が進んでいたため、土台から丁寧に補修し、安心して使える状態に整えられた。
見た目は大きく変わらないが、快適さは確実に向上している。その背景には、設計士と大工による細やかな対話があった。限られた予算の中で、どこに手を入れ、どこを残すのか。祖父母の暮らしの痕跡を尊重しながら、「今の人が心地よく使える」バランスを探っていったという。
室内に並ぶ家具や建具の多くは、もともと家にあったものや、葉山の古道具店で見つけた一点ものだ。食器棚はリメイクして再利用し、テーブルや椅子は和洋折衷の空間に自然となじむものを選んだ。中でも象徴的なのが玄関の扉だ。かつてアルミサッシに替えられていた玄関に、偶然出会った古い木製扉を建具職人の工夫で引き戸として再生。「家の顔」となる場所に、宿の世界観が凝縮されている。
屋号「とりや」を引継ぐ
宿名の「とりや」は、かつて祖母が養鶏を営み、卵を近隣に卸していたことに由来する屋号だ。突然新しい名前を掲げるのではなく、地域に馴染んだ呼び名を引き継ぐことで、近隣の人にも自然に受け入れてもらいたい――そんな配慮も、この宿らしさと言えるだろう。古いものが寄り集まり、新しい役割を得て息を吹き返す。その積み重ねが、木村邸とりやの空間を形づくっている。
民泊として蘇った
民泊というスタイルに不安はあったものの、「1日1組」という限定性や、食事提供もできる営業許可を三浦市・保健所に相談して取得したことが背中を押した。こうして古民家を生かした宿づくりに向けて話は進み、約2年の準備期間を経て、25年1月についに「木村邸 とりや」はグランドオープンを迎えた。
古き良き建物の趣を残しつつ、キッチンや水回りの補修、古道具やアンティーク家具を取り入れた内装にも工夫を凝らし、訪れる人が三浦の暮らしと食を五感で味わえる場として整えられている。この地と家族の歴史が重なり合った「とりや」の宿は、ただ泊まるだけではない、記憶に残る滞在を提供している。
宿=木村邸 とりや
住所=神奈川県三浦市南下浦町毘沙門
ウリ=のどかな農村部で、大人数でゆったり滞在可能






















