酒場遺産 ▶118 白山 ジャズ喫茶「映画館」 令和に生きていることを忘れる
住宅新報 2026年1月20日 号 11面
連載: 酒場遺産

巣鴨から湯島へ歩く途中、ジャズ喫茶「映画館」に(多分)10年ぶりに立ち寄った。通りの裏の窪地にひっそりとたたずむ、時代から取り残されたような店だ。そう広くない店内には大きなスピーカーが設置され、素晴らしい音のジャズが流れる。「映画館」という不思議な名前だが「ジャズの流れる喫茶店兼酒場」である。
白山神社を中心に発展したこのエリアには、戦前1928~1943年には「白山キネマ(後に白山東宝映劇と改称)」が、戦後47~62年には「光音映画劇場」という映画館があったという。この「映画館」も、かつては店内でフィルム映画が上映されていたらしい。今はマスターが集めたLPレコードがぎっしりと並べられており、本格的なオーディオが設置されている。ジャズ喫茶の系譜と映画文化との交差が、この「映画館」を特別な存在としている。
窪地への階段を降りて、店の扉を開けると、正面に大きな木製のテーブル、左手にはキッチン前のカウンター6席とテーブルが3卓。LPレコードが所狭しと並ぶ濃密な空間は、この店の時間の堆積を感じさせる。「ジャズ喫茶映画館メニュー」を開けば、酒と気の利いたツマミが並ぶ。ラム、ジン、ウイスキー(スコッチが中心)、麦酒(ラガー、ギネス、東京エール)、焼酎(伊佐実、三岳、吉四六)、電気ブランなど、手頃な価格でそろえる。ツマミ類もミックスナッツ、チーズ、スペイン風オムレツ、ソーセージ盛り合わせなど。珈琲や紅茶のメニューも豊富だ。今夜は、ソーセージをつまみながらボウモアのロックをいただいた。
先ほどまで大テーブルに集まっていたシニアのグループに店主が加わり、何やら長話し(講義だろうか)をしていた。白山の歴史と記憶の堆積(たいせき)、映画文化、ジャズ、高齢だが威厳を感じさせる店主……。ここにいると令和の時代に生きていることを忘れる。(似内志朗)






















