酒場遺産 ▶117 御徒町 佐原屋本店 名物は煮込みと湯豆腐
住宅新報 2026年1月13日 号 11面
連載: 酒場遺産

御徒町「佐原屋本店」を訪れたのは実に20年ぶりだ。場所はJR御徒町駅南口から徒歩約1分、JR山手線・京浜東北線の高架下にあり、通りを挟み下町スーパーの雄「吉池本店」がある。筆者が40代半ば頃、前職で田原町の建築プロジェクトセンターに半年ほど勤務していたことがあり、湯島の自宅への帰り道によく立ち寄った。12年前に改装され中も外も小綺麗になったが、それ以前は間口が極端に狭く、奥に長い「穴ぐら」のようなガード下の空間だった。そんな独特の空間の一直線の長いカウンター席に座る男たちの多くはひとり客だった。代々の家族経営らしく、3人の若い女性たちが店を切り盛りしていた。特に「貴ちゃん」は活発な美人で、男性客には大層人気だったことを覚えている。
あれから20年が経ったが、少し年齢を重ねた「貴ちゃん」は変わらず元気にカウンターに立ち、客との会話で盛り上がっている。そして20年ぶりにもかかわらず、筆者のことを覚えていてくれたのが嬉しかった。改めて、酒場の由来を貴ちゃんに訊けば、創業は戦後すぐの昭和22年、今年で創業78年目。以前は2階座敷を含め15人が働いていたが、今は従業員5人でやっているという。
「今から考えると、あの頃はあまり居酒屋が多くなかったんです。最近はこのあたりにも入りやすい居酒屋がたくさんできたから、お客さんも分散したんだと思います」と言う。店名の「佐原」は、出身地の千葉県佐原に由来する。筆者はこの店で日本酒を飲んだことがなく、いつもクラシックラガーだ。
創業当初からの名物は煮込みと湯豆腐で、煮込みは白モツとこんにゃくを甘めの味噌で煮込んだもの、湯豆腐は豆腐に振りかけられた天かすが特徴だ。ハムカツ、メンチカツ、レバテキ、刺身、ポテトサラダなど、定番メニューも人気という。以前よく頼んでいたのが「とんぶり」だった。秋田の郷土食材で「畑のキャビア」とも言われる。ホウキギ(コキア)の実を加工したもので、プチプチした食感が癖になり、とんぶり山芋和えや、とんぶり納豆をよく食べたことを思い出した。懐かしい日々だ。(似内志朗)






















