新年特集 成長へ新たな選択肢 持続可能性を追う 東京 大改造で内需創出 住宅・不動産各社 体験価値を生み出す再開発 街の資産価値を引き上げる
住宅新報 2026年1月6日 号 19面
多様化への対応
「日本の不動産市場は成長マーケットだ」。JLL日本代表取締役社長の河西利信氏はそう強調する。金融政策に注意を払う必要があるが、日本独自の企業改革機運が諸外国から評価され、投資資金の誘因につながっているためだ。東京証券取引所やアクティビスト(モノ言う投資家)のプレッシャーを受けて企業の非戦略的な不動産売却が続いている。直近では、昨年12月24日にサッポロホールディングスが、同社の不動産事業を担うサッポロ不動産開発の全株式を取得することで合意した。譲渡価格は4770億円。虎の子とされた不動産事業を売却して本業にその資金を振り向ける。
森記念財団都市戦略研究所の「世界の都市総合力ランキング2025」では東京がニューヨークを抜き、総合ランキングで初めて2位に浮上した。長らく3位に甘んじていたが、住環境の割安感と、観光資源や外国人訪問者数の増加などがスコアを押し上げた。昨年は、外国人問題が社会に悪影響を与えているとクローズアップされたが、今後日本は外国人の増加が見込まれ、その外国人も高度人材にとどまらず労働力の補填(ほてん)の側面からの人材が増えていく。大都市政策研究機構によれば、外国人人口の増加率(17~24年)は千代田区で44.8%、中央区で67.9%、文京区で53.0%、足立区で43.5%、葛飾区で43.0%という数字が示すように外国人が増えるのは都心部に限らない。その外国人が増える過程で必ず問題が発生し、コミュニティーに軋轢(あつれき)を生むが、どのようにしのいでいくかという問題と同時に、共生に向けての都市住環境を整備していく必要がある。そこで果たす不動産開発各社の役割は大きい。東京に焦点を当てると、大改造が都内各所で進行している。渋谷駅、池袋駅、新宿駅、大崎駅、品川駅・田町駅といった都心主要駅周辺エリアで「認定民間都市再生事業計画」が行われている。
同機構理事長で明治大学名誉教授の市川宏雄氏は、東京のライバル都市をロンドン、ニューヨークと位置付けている。ロンドンは、街の多くが保存対象になり、その風景を見ると、街の西側は高さ制限があって東側に超高層群が生まれ、ロンドン中心ではなく開発が散らばっているのが特徴。東京と違って簡単に開発できない課題を抱えるとも指摘する。
超高層が立ち並ぶニューヨークでは、これまで以上に〝超超高層化〟が進んでおり、最近では400メートルを超える。開発し尽された印象が漂い中心部から外れるハドソンヤードでの開発が進む。開発面積はおよそ11.3ヘクタールで、総延べ床面積は約162万m2と米国で最大規模の民間開発である。鉄道の車両基地のうえに蓋(ふた)をかけての開発で、あと半分が残っている。ミッドタウンの一部ではあるが西側に広がっている。
東京の中心が南下
では、東京はどうなのか。ど真ん中に皇居がある。銀座は高さ制限で超高層はできない。向こう10年間を見据えると、一部に遅延はあるが東京ならではの開発がエリアごとに進んでいる。三菱地所のおひざ元の大丸有エリアは、明治期に政府からの土地の払い下げで作ってきた街で、皇居周辺を延々とパターン化して都市づくりを進めた。
一方で、六本木エリアでは、森ビルが多くの地権者との交渉を重ねながら土地を開発し、「立体緑園都市(Vertical Garden City)」構想における高層化による都市機能の集約を進め、そこで生み出される「空」の活用で国際都市に押し上げた。東急は100年に一度の駅周辺の大開発が進んでおり、東京はそれぞれのパターンをつなぎながら都市を作っている。
その東京の中心部は、丸の内・大手町から南下し始めている。JR東日本の都市戦略「広域品川圏(Greater Shinagawa)」では、2030年代半ばまでにグループ保有ビルの床面積を約150万m2とし、営業収益が年間1000億円超を視野に入れている。鉄道大手の強みである「えきまち一体開発」を連鎖的に推し進めて国際都市東京のグローバルビジネスゲートウェイとしての役割が期待されている。羽田空港へのアクセスとリニア新幹線の発着地点という地の利を存分に生かす戦略を採用する。
野村不動産とJR東日本は、国家戦略特区である「BLUE FRONT SHIBAURA」のツインタワーのうち南側の1棟目タワーSを25年9月に全体開業した。野村不グループは新宿から移転し、同ビルの3割ほどのシェアを占める。「オフィスの共用部での充実に高い評価をもらっている」(野村不動産)といい、全体のオフィス入居率はIT系や医療系など幅広い業種が入居し、契約ベースで満床だ。ラグジュアリーホテル、商業・飲食施設も併設している。同プロジェクトは2棟目のN棟開発も27年度の着工が予定され、ベイエリアと東京都心部の結節点「〝つなぐ〟まち」の創出を目指す。
オフィスは再定義
人口減少下で人手不足に直面する中で、優秀な人材獲得に向けた企業の動きを意識した都市づくりも進んでいる。クオリティーの部分で出社したくなるオフィス構築が見られ、企業の移転・拡張需要が増している。足元では東京都心部に空室はほぼない。
JLLによれば、都心5区でAグレードオフィスのストックは約344万5000坪で、その空室率は昨年9月末時点で0.9%と1%を下回っている。西武ホールディングスにより24年12月に売却された旧赤坂プリンスホテル跡地の複合施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」のタワーオフィス部分がおよそ2万4000坪であることから、「東京都心の空室をすべてかき集めてもこのビル1棟分しかない」(JLLの大東雄人氏)と指摘する。
そんな中で都市開発におけるオフィス開発の新たな選択肢としては、「出社したくなる理由(体験価値)×企業の経営課題(人材・ESG・生産性・BCP)を同時に満たすこと」で、とりわけに東京はハイブリッドワーク定着の中でオフィスを「単なる働く場」から「交流・イノベーション拠点」へ再定義する動きが挙げられる。オフィスの目的は変わった。仕事を処理する場よりも、偶発的な出会い・対面での議論・社内外のつながりを生む場が重要になり、そのうえで企業は「増床で投資」と「減床で効率化」に分かれて床面積戦略は二極化しやすく、ビル運営として、そこへの柔軟性が求められる。
「ウェルビーイング(健康・快適・安心)」が採用面でプラスに働く。サステナビリティの実装として再エネ電力や環境認証を導入したり、「人がいる場所だけ快適に・ムダを減らす」運用では、センサーによる在室スペース制御でエネルギー使用とカーボンの削減につながる。巨大地震など災害への備えによる事業継続性(BCP)はもちろん、老朽インフラの更新や酷暑対策などを単なるコストではなく資産価値の安定につなげて投資の正当化に結び付ける。
国際競争力アップ肝
これからの都市開発において「成長」を考えるとき、従来の「人口増・床面積増」の視点にとどまらず、価値の増やし方(稼ぐ力・暮らす力・守る力)に焦点を当てた選択肢の広がりが重要になっている。国際都市としての競争力を上げることで多様なプレーヤーを巻き込み、国内外からの投資も加速する。奇しくも日本はインフレと賃金上昇による堅調なマクロ経済環境下にある。資本効率を考えた企業経営を促してきた規制の変更、良好な資金調達環境で十分な利回りスプレッドが取れる要素が存在する。こうした好循環を途切れさせないためにも魅力ある都市づくりに知恵を絞り続けなければならない。
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第2部の新年特集は継続的な成長へ向けてセクターごとに新たな選択肢を探った。

























