古民家宿の物語 日本全国リノベーション 112 山梨県甲州市「るうふ 蔦之家」(中) 地域の記憶に敬意を払う
住宅新報 2025年9月30日 号 11面

家主の想いを預かる
山梨県勝沼町に位置するその建物は、古民家再生事業を手がけるLOOOFによって再生され、1日1組限定の宿「るうふ 蔦之家」として2023年に生まれ変わった。
きっかけは、LOOOFが北杜市で手がけた宿「峡之家」の内覧会で、近隣住民が紹介してくれた一軒の空き家だった。紹介された物件は、かつて実業家が家族のために建てた昭和の住宅で、当時流行していた和洋折衷様式が色濃く残っていた。洋館を思わせる外観に、和室の間取りが共存するユニークな構造。家主はこの家に愛着を抱いていたが、年齢的に管理が難しくなり、どう活用すべきか悩んでいた。
元のインテリアを尊重
その家に宿泊施設としての新たな命を吹き込んだのが、LOOOFの手腕だった。建物の骨格は生かしつつ、水回りや電気設備は現代の仕様に全面更新した。
かつて表庭にあった室町時代の石灯籠は新設された中庭に移設された。季節の移ろいと共に変化する陰影が、静かで美しい時間を演出している。
更に、建具や家具は可能な限り当時のものを再利用した。椅子の座面を張り替えたり、古い照明に手を加えたりと、記憶を残しながらも心地良さを確保する工夫が施された。
空間全体の設えには、勝沼らしく「ぶどうの成熟」をテーマにした色彩演出がなされており、エントランスの淡いグリーンから奥に進むごとに赤紫へと変化する。これは、未熟なぶどうがやがて熟してワインへと生まれ変わる物語を象徴している。
地域をつなぐ装置に
蔵を改装したラウンジも、この宿ならではの魅力のひとつだ。2階にはソファスペースがあり、選りすぐりの地元ワインをゆっくり味わえる。焚き火台や「ワイン風呂」といった体験も提供され、宿そのものが〝勝沼という土地の記憶〟を感じさせる。
「蔦之家のように文化財指定がない建物でも、地域の記憶が詰まっている。その記憶に敬意を払うことが、宿づくりの出発点」と担当者。この宿は単なる滞在先ではなく、人の思い出と地域の記憶をつなぐ役割を担っているのかもしれない。
宿=「るうふ 蔦之家」
住所=山梨県甲州市勝沼町
ウリ=地域のワインと上質な和洋折衷体験ができる






















