高度化するスマートシティ像 社会実装には課題、事業化模索
住宅新報 2024年1月23日 号 1面
「ウェルビーイング」に貢献するか 実証段階から本格移行に期待
「スマートシティ」自体を簡単に振り返ると、街づくりの概念として国内で提唱されることが増え、関心が高まったのは2010年頃とされている。そして10年代半ばごろから、具体的な事例の本格稼働が見られるようになった。
当時のスマートシティ構想では、主にエネルギーマネジメントの効率化・高度化という領域に注目が集まっていた。防災・セキュリティやウェルネスといった分野の取り組みも進められたものの、事業性やエンドユーザーの関心などから、省エネ分野の取り組みが進んだ様子だ。
国交省のWGで検討
その後、デジタル技術の進化や社会課題への認識の拡大などを背景に、街づくりに求められる要素が広範化・複雑化。地域によって優先される課題が異なることもあり、様々なスマートシティへのアプローチが進められるようになった。内閣府はスマートシティを、「ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域」と定義していることからも、包括的な概念へと進化している様子がうかがえる。
そうした中、スマートシティ関連政策を主に所管する国土交通省では、現在「スマートサービスによるウェルビーイング改善」に向けた検討が進められている。「スマートシティモデル事業等推進有識者委員会」(21年設置)から派生したワーキンググループ(WG)が議論を行っており、2月には結論を提言として集約・提示する予定だ。
同WGの考え方としては、個別分野におけるスマート化を進めることで、大きな目標である「市民の幸福度(ウェルビーイング)」を向上させることに主眼を置く。検討のフェーズとして、都市のスマート化で「何ができるか」の段階から、「何をもたらすか」を考える段階に移ったとも言えるだろう。
「マネタイズが重要」
背景には、国の支援による実証事業等の事例が増え、エネルギーマネジメントを始めとして様々な分野の知見が蓄積されてきた一方、依然として課題も多く、本格的な普及・定着や広範な実装には至っていないという現状がある。同有識者委員会では、「実装に向けては、ビジネスプランやマネタイズがしっかりしていることが重要」「(手段で分けるのではなく)『誰にとって何の価値があるのか』を明確にして整理すべき」といった意見が挙がっていた。
更に、「日本のスマートシティは、デジタルを使って何かやろうとして、やりやすいものから実装しようとするために横展開が難しいものがある印象」(同委員会委員)との指摘もある。全てではないまでも、デジタル化自体が目的化する面があり、長期的・マクロ的な取り組みに発展しにくい傾向は否めない。
そこで国交省は、街のスマート化を進める際の方向性として「ウェルビーイング向上」という共通の目標を設定。スマートシティの意義と恩恵を明確化し、具体的な取り組みの動機付けや分野間連携などの活発化を狙ったものと考えられる。
兵庫・加古川 「デジタル化は手段」 幸福感と危機対応に照準
QOLを目標に置く例も
「ウェルビーイング」を根底に置いたスマートシティ化事例の一つに、兵庫県加古川市の取り組みがある。21年に策定した「加古川市スマートシティ構想」では、基本目標の筆頭で「市民のQOL」に言及しているほか、市政運営の理念としても「市民が感じる幸福感の向上を目指す」を掲げている。「デジタル化はその手段の一つ」(同市政策企画課)という考え方だ。
そのため同市では、行政手続きのデジタル化を始め、見守りサービスや災害対策、駅前再整備におけるイメージ共有など、市民の利便性や安全性に直結するスマートシティ化事業を中心に展開。また毎年、市民満足度や重要度の調査を実施しており、現在は24年度の同構想見直しに向けた意見公募も行っている。
ビジョンと具体策の確立を
一定の成果を上げている〝実装事例〟はあるものの、実証段階にとどまっている例も多く、取り組む自治体の数自体も拡大の余地が大きい。有識者の指摘を重ねて見ても、引き続き実装と発展がスマートシティの課題となっていることがうかがえる。
同WGではこうした課題の解消に向け、国の目指すスマートシティ像の再構築と提示すべき具体的なビジョン、そして実装・発展に向けた方策を論点としている。ある同WG委員は、「マネタイズできることが地域で必要とされているということであり、住民のウェルビーイングにも貢献できているということ」と述べている。
ただし、直接的な収益化は難しいものの、街の公共機能としてスマート化が求められる分野もある。その典型例が防災・災害対策だ。「AI活用による河川水位予測システム」(静岡県藤枝市)や「オプトイン型防災情報提供サービス」(福島県会津若松市)など、国交省の支援による実証事例はあるが、こうした公益的な取り組みの持続的な拡大も課題の一つとなるだろう。
ある種の公共事業と捉え、国が継続的に支援することも考えられるが、街の機能強化自体をメリットと考えることもできるだろう。モデルケースとして、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)地区では、民間事業者を中心としたエリアマネジメント団体が災害対策のスマート化を進めている。直接的な収益化は難しくとも、街を構成する民間主体自身が地域の価値向上を図り、事業基盤の持続性を高める取り組みだ。
社会環境の変化により、都市に求められる機能の多様化・複雑化が進んだことで、目指すべきスマートシティ像も高度化している。その本格的な実現には、目指すべきビジョンの明確化と共に、現実的な事業化の道筋や、公益的機能実装の動機付けなどを確立する必要があるだろう。
























