インフレを成長の起点に 賃貸がつなぐ長寿社会 不安克服へ新発想 ライフステージで選択
住宅新報 2024年1月2日 号 23面
厚生労働省の発表によると、日本人の平均寿命は現在(22年調査)男性が81歳、女性が87歳で共に80歳を超える。特に女性の半数は90歳まで存命する時代だ。今の若い世代がそうした長い人生を見据えたとき、住宅取得、特にローン負担に対する意識が変わっていくのは当然だが、その変化に対応した商品が既に現れている。
利用しない期間は賃貸
サンケイビルはこのほど、神奈川・箱根町で分譲型ホテル「ブリスティア箱根仙石原」(63室)を完売した。これはホテルコンドミニアム(38室)とホテルレジデンス(25室)をミックスしたユニークな建物だ。
前者は、建築基準法上はホテルとなっており、購入者は自分が利用しない期間は客室提供することで、賃料を得ることができる。後者は建築基準法上も住宅で、1年間の半分(180日)を限度に民泊として同じく運営者に貸し出すことができる。
つまり、どちらを購入しても賃料収入を得ることができるため、購入にかかる負担を軽減しながら自分の生活拠点(住まい)を持つことが可能だ。
価値観が多様化
若い世代にとって住まいは人生設計の一部ともいうべき存在。その一つの事例がリブランが展開する防音賃貸マンション「ミュージション」だ。音大生など将来プロを目指す人たちに限らず、音楽を生きがいにしている人たちからも高い評価を得ている。また最近はユーチューブなどの動画制作を専門にする人たちが借りるケースも増えている。同シリーズは現在首都圏で30棟を超え、4000人の入居待機者がいるという。これは、これまでの世代が住まいの所有を目的としていたのに対し、今の若い世代は住まいが人生における価値観や生きがいと密接に関わっている証と言えそうだ。
これまでの住宅選び(住宅双六)は、独身時代、結婚、子育てといった人生の〝既定路線〟を歩むためのものでよかったが、これからは多様な価値観で個々の人生を生き抜くための新たな〝住宅双六〟が求められることになる。
新型住宅ローン
長寿化を背景に、高齢者にとってはリタイア後の人生設計と住まいが重要な課題となってきた。その象徴がリバースモーゲージの急速な普及だが、ここにきて住宅購入の当初から普通の住宅ローンに、返済額軽減と、買い取りの2つのオプションが付いた、新たなライフスタイルにマッチした「残価設定型住宅ローン」が開発されている。
これは金融機関が一般社団法人移住・住み替え支援機構(JTI)と連携して導入しているもの。
JTIがこれまで積み上げてきた戸建て住宅の膨大な賃料データをベースに、将来の住宅の収益還元価値(残価)を保証しているのが特徴だ。この残価をもとに、それ以降は月額返済額を大幅に圧縮した住宅ローンに切り替えることも、その時点での住宅ローンの残高でJTIに買い取ってもらうこともできる。
住宅ローンを借りる時点で、ローン返済の負担を圧縮できるオプションを確保できる点は、人生の安心感につながる。
定期借地権住宅を
若い世代がこれから住まい選びをするとき、はずせないのは「定期借地権住宅」という選択肢だ。例えば福井県小浜市の平田不動産が提案する定借住宅は、まさに若い世代の人生設計に寄り添うものとなっている。例えば、50坪の土地を50年契約で借り、そこにフラット35の融資で戸建て住宅を建てる。30歳で始めると65歳でフラット35の返済期間が終わる。その頃には子供は巣立っているだろう。そうであれば、その時点で定期借地権を解約して夫婦2人で暮らすリタイア後の終の棲家を求め直したり、また、解約せずに残り期間は賃貸に出すことなども想定できる。子育て期間とその後のマイホームは分けるために定借を活用しようという発想だ。
暮らしを創る
これから本格化する人口減少時代は、ストックも含めれば基本的に住宅は供給過剰となり、一部のエリアを除き価格が下落していく。そこで住まいは生涯所有せず、賃貸でそのときどきのライフステージに合わせて住み替えていくという発想は当然成り立つ。そのような考え方をする人たちに受け入れられる賃貸住宅とはどういうものだろうか。集合住宅における豊かさの創出について研究し実践もしているドムスデザイン社長の戸倉蓉子氏は、「賃貸マンションは思い切った企画を導入したほうが成功します。利回りとかを考え住戸数を多くしたりするよりも、どうしたら住む人たちが喜んでくれるかとか、毎日の暮らしに想いを馳せて、どうしたらワクワクするかという視点でつくったほうが満室になる可能性が高いと思います」と語る。
事実、同氏が18年前に東京・世田谷の経堂でデザインしたマンション「ラベラヴィータ」は今でも満室を維持しているばかりか、家賃が当初の1.5倍に上がっているという。あえてエントランスを造らずに、バス道路から敷地内の路地を入っていくと建物の中庭が突然開ける設計となっている。入居者の多くがその中庭の景色を楽しむために、エレベータを使わずに外階段を利用するなど、入居者目線に立った設計が見事に成功している事例だ。
今こそ政策転換
〝生涯賃貸住宅〟と決めた場合、唯一の不安は高齢になってからでも賃貸住宅市場での住み替えが可能かという点だ。というのも、現状は孤独死などを恐れて高齢者の入居を拒むオーナーや管理会社が多いからだ。高齢者の部屋探しを支援するR65(東京杉並区、山本遼社長)の調査によると、65歳以上の4人に1人が入居を拒否される経験をしていて、そのうち5回以上も断られていた人が12%もいたという。そうした状況が今の若い世代が高齢になっても続いているとは思いたくないが、問題の解決には市場任せではなく公的政策が必須と考えるべきだろう。
それは持ち家取得を中心としたこれまでの住宅政策を転換し、国民が仮に〝生涯賃貸〟という選択をしても安心して暮らせる社会にしていくことを意味している。それが成熟国家として世界に先駆け〝人生100年時代〟を迎えた日本が取るべき住宅政策ではないだろうか。
世代交代で深化
分譲も賃貸も集合住宅のこれからの重要課題は住民同士の交流と地域への貢献だろう。そして賃貸マンションの場合にはその収益性をできるだけ長く維持することがオーナーにとっての最重要課題となる。ということは分譲マンションとはやや異なる意味で日常的に地域との交流を深め、マンションでの暮らしやすさが地域に情報として提供されていく仕組みづくりが必要となる。そうすることで、例えば退去者が出たとしても、すぐに次の入居者が決まる可能性が高くなるからだ。
そのためには、例えば子育て環境に優れているとか、前述したドムスデザインのマンション「ラベラヴィータ」のように景観に優れ居心地がいい中庭といったコンセプトを備えていることが不可欠になる。そしてそのコンセプトが幾世代にも引き継がれていくことで更に深化していく。それこそが、これからのストック過剰時代に勝ち残る賃貸マンションの戦略になるのではないか。

























