昭和前期における「台所」の熱源は薪や炭で、煮炊きは「へっつい」と呼ばれる竈(かまど)で行い、洗濯や食器の洗浄は屋外又は屋内にある「流し」で行っていました。戦後、「寝食分離」が広がり、居間の一部に3点式(ガス台・調理台・流し)のキッチンセットが設けらるようになり、高度度成長期に入ると3点セットの欠点である、天板の隙間を無くした一枚天板のシステムキッチンが台頭します。
レイアウト自由に
システムキッチンはレイアウトの自由性が「キッチンスタイル」を生み出し、合わせて主婦のステイタスを示すツールとなったのが「対面型」や「アイランドキッチン」と呼ばれる「スタイル」です。厳密にはシンクやレンジ、調理台が壁から離れ、島のように独立しているのがアイランドキッチンですが、ハウスメーカー等では対面型キッチンの壁を取り払い、天板を大きくしたものをアイランドキッチンと呼んでいます。
料理は半完成品の食材を多用しますが、無農薬や減農薬は当たり前になる一方、健康志向から従来の食材とは異なる分野の材料も使われるようになり、大豆たんぱく由来の人工肉などが日常的に使われるようになると思われます。
さて、こうした食環境を受けるキッチンの今後ですが、宅配やスーパーなどの惣菜メーカー等の半完成品の食材を多用しつつ、栄養価を失わず、新しい味覚の体験をしてみたいというニーズが強くなると考えられ、新しいキッチン作業のメソッドとツールが必要になります。
これを支えるのがスマートテクノロジーを統合したキッチンアプライアンス(機器)で、スマート冷蔵庫、スマートオーブン、スマート電子レンジ、スマートクックトップ、スマートコーヒーメーカーなど、スマートフォンのアプリを通じてリモート制御できる機器です。また、AlexやSiriなどの音声アシスタント、Chat GPTのような生成型AIとの連携も進みます。
新たな調理メソッドに役立つ具体的なツールとして真空調理、低温調理器、3Dフードプリンター、超音波調理、高圧殺菌技術などがあります。
3Dフードプリンターは3Dプリンター技術を応用して食品を作成する方法で、食材を層状に積み重ねて造形することで、複雑な形状の食品を作ることができます。これにより、創造的な料理が可能になり、多様な食材カプセルが準備できれば、調理から盛り付けまでが一気に完成します。
超音波調理は数年前から、一部のグルメキッチン等で使用が始まりました。原理は眼鏡屋さんに置いてある超音波洗浄機と同じです。超音波振動によって発生した液体内の細かな泡が割れるときに発生するエネルギーが食材に作用して、素材を柔らかくしたり味を染み込ませたり、食感を整えたりします。このような分野は分子料理と呼ばれ、起源はスペインの有名レストラン「エルブリ」あたりではないかと思われます。
化学実験のラボに
調理のメソッドとツールが進めば、キッチンは化学実験のラボのようになる可能性があります。
また、機器そのものががコンパクトになればキッチンがリビングの一部に鎮座する必要は無く、壁面に埋め込まれ扉で隠せる「ブラインド・キッチン」のようなものになるかもしれません。
(建築家・中村義平二)























