不動産取引現場での意外な誤解 売買編195 手付解除条項は消費者の希望で削除できるか?
住宅新報 2023年6月20日 号 21面
連載: 不動産取引現場での意外な誤解

Q.前回の最高裁判例は、他人物売買の仕入れの契約が他人物売買における「履行の着手」にあたるという事案でしたが、この判例は、別の面でも有名ですよね。
A.その通りです。この判例は、「履行の着手」の判断基準における有名な判例ですが、同時に、履行の着手をした契約の当事者(売主)自らの手付倍返しによる契約の解除を認めた事案でもありました。そのため、先般の民法改正で、手付に関する民法557条の規定を、「その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない(解除できない)」と改正したといわれています。
Q.なるほど、そうでしたか。しかし、この手付に関する民法557条の規定はもともと任意規定ですから、手付が「解約手付」であることを定めたこの民法の規定と異なる特約をすることはできますよね。
A.できます(売買編191で説明済み)。したがって、契約の当時者が、どうしても「手付放棄・倍返し」による手付解除を防止したいという場合は、先述の191通りの方法で、手付が解約手付であることを否定し違約手付にするか、あるいは手付が少額の場合には違約金の額を増額するといった方法で「特約」をすればよいと思います。
Q.要は、当事者が手付解除を防止したければ、手付解除条項を完全削除するということですね。
A.端的に言えば、そういうことです。しかし、ここで大事なことは、売主が宅建業者で買主が宅建業者以外の場合、削除はできないということです(宅地建物取引業法39条(2))。仮に買主(消費者)からの要望でそのような取り決めをしたとしても、取り決めは無効とされ、売主は手付の倍返し、買主は手付の放棄によって売買契約を解除できるということです。
Q.それはなぜですか。買主からの要望であればよいのではないでしょうか。
A.それができないのです。なぜならば、ご承知のとおり、宅建業法の規定は強行規定ですから、それに違反する取り決めは一律に無効とされ、定めたとしても、なかったものとされます(同法39条(3))。そうすると、当事者間には一般法である民法の規定が適用されるからです。
渡邊不動産取引法実務研究所
代表 渡邊 秀男






















