物流不動産ビジネス ケーススタディ 拡縮対応 入居時の取り決め 倉庫ドクター・コンサルの現場から 第4回 イーソーコ総合研究所 代表取締役 出村亜希子
住宅新報 2022年7月19日 号 3面

賃貸区画をテナントニーズに合わせて設定できる点は、物流不動産の特徴です。1棟、1フロアなど、まとめて賃貸できれば管理しやすいのですが、分割して貸すことは多いものです。通常、物件の規模が業容に合わなくなると移転しなくてはなりませんが、物流不動産は間仕切りの少ない大空間で、区画の拡縮が比較的柔軟に対応できるというメリットがあります。
この1~2年は、ワークスタイルの変化などによる縮小ニーズもあれば、今が好機とした拡張ニーズ、集約合理化ニーズもあり、業種による傾向や個別経営事情もさまざまです。先日、当社の管理物件では、同一物件内の縮小ニーズと拡張ニーズを組み合わせ、両社とも移転することなく調整した事例がありました。オーナー、各テナントの双方にメリットのある一方で、色々と注意が必要だと感じることがありました。
物流不動産は、もともと荷物保管の空間であるため電気、空調などの設備インフラが弱く、設備は用途や使い勝手に合わせて後からプラスするのが基本です。また、オーダーメードで唯一無二の空間を自由に構築できる魅力から、入居時に何らかのリノベーション工事を行うことがほとんど。入居後も、会社の変化に合わせてリノベーションを繰り返すことがとても多いのです。レイアウトの変化に伴い、電気や空調、通信などの設備も変わります。そして、リノベーションによって設備インフラが充実し、物件の価値が高まることから、原状回復の一部免除も物流不動産ではよくあります。廃材の発生が抑えられ、SDGsの観点からも望ましいことですが、その分、事は複雑です。テナントの入れ替わりなどで賃貸区画が伸び縮みする場合、設備の区画も賃貸区画に対応しているか。照明コンセントや各種メーターが互い違いになっていないか。また、正しく整理して引き継ぐために、どの会社で資産計上しているかなども、よく確認する必要があります。企業の場合、入居して数年後には、双方の担当者が替わることも少なくありません。入居時の原状や改修履歴を残さなければ、状況把握だけで大変な労力を要します。
そこで、重要なのが入居時の取り決めです。入居時の原状をしっかり把握しておくため、原状確認書を作成して現地確認し、合意しておくことは必須といえるでしょう。また、オーナーとテナントの工事区分や原状回復の範囲を記した図面を作成し、契約書に盛り込んでおくことで、担当者が替わっても、無用な混乱やトラブルを防げます。また、入居時はもちろん入居中の改修工事履歴もしっかり残すことで、どちらの資産でどう原状回復するか判断できるようになります。
最近、特に注意が必要だと感じるのは、残置物の権利関係についてです。空調などの設備を残置物として次のテナントに貸すと、壊れたときにオーナーに責任と費用負担が生じるのです。物流不動産では設備があること自体が珍しく、ラッキーと思っていると、思わぬ落とし穴に足をすくわれかねません。倉庫オーナーからの相談の多くは本稿に紹介した原状回復時のトラブルです。
何事もはじめが肝心。入居時の取り決めは丁寧に対応したいところです。
でむら・あきこ=富山県出身。奈良女子大学大学院修了。一級建築士、宅地建物取引士。不動産コンサルティングマスター。15年より(株)イーソーコ総合研究所代表取締役。著書に『築古[ビル・倉庫]のリノベーション・コンバージョン計画実務資料集』(綜合ユニコム(株)・共著)






















