都心の物流不動産 都市型マルチパーパス倉庫への進化 最終回 「地域共生」広がる相互利益 (株)イーソーコ総合研究所代表取締役 出村亜希子
住宅新報 2022年3月15日 号 3面

出村氏
EC(電子商取引)隆盛の中、都市部における倉庫・物流のニーズも多頻度小口化と共に進化しています。施設面で鍵となるのは「地域との共生」。地域と密着し、共存する施設です。
過去には、施設と近隣住民との間で摩擦が起こることが多々ありました。トラックの出入りによる騒音や安全性の問題などから、社会インフラとして必要不可欠とされながらも「家の裏には造ってほしくない」。いわゆるNIMBY(Not In My Back Yard)と捉えられたのです。
しかし、物流不動産が消費地立地にあるということは、働き手の確保がしやすく、消費者はよりきめ細やかなサービスを受けられるということ。施設と地域はウィンウィン(相互利益)の関係を築けるのです。現在、都市型施設では、荷さばき場を内側に設けたり、視線を遮ったり、動線を分けたりと、物流の喧騒(けんそう)を近隣に感じさせない配慮と工夫が随所に施されています。環境にも優しく、ショールーム機能をつくるなど、消費地立地ならではの価値を付加することもできます。
地域に溶け込む
住民の安全性を確保した上で、施設が街に開き、地域に溶け込む施策も活発になってきました。外構部に緑地や園地を設けて開放したり、施設を見学できるように整備したり――。計画中の都市型マルチパーパス倉庫においても、ランナーズステーション、コインランドリーなど生活者目線のサービス設備の付設や、休日に敷地スペースを有効活用したマルシェの開催も計画されています。
働く人にとっても魅力的で「人が集まる」施設となりました。託児所やカフェテリアといった機能面が充実しており、雇用促進の効果は言わずもがな。休憩ラウンジやトイレなどの共用部アメニティは、アトリエ系の建築家などがデザインを手掛ける事例も多く、クリエイティブオフィス顔負けの洗練された空間や遊び心のあるエンターテインメント性の高い空間が次々と登場しています。人を大切にした計画において、アートやデザインの持つ力は大きなものです。
郊外の事例では、日本GLPが展開する大型物流施設「GLP ALPHALINK(アルファリンク)相模原」の取り組みが注目を集めています。クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を起用して施設自体をブランディング。敷地内には、レストランやカフェテリア、コンビニ、会議室、託児所、多目的コートなどが整備され、地域住民にも開放されています。周辺には新興住宅地が広がり、物流不動産を中心に街が形成されているといっても過言ではありません。この潮流は都市型マルチパーパス倉庫にも広がり、四方に枝を伸ばすように多様な形で地域と融合し発展していくことでしょう。
物流不動産は、災害時の防災拠点としての機能も果たします。免震構造や防災設備の拡充、災害備品の備蓄、避難場所としての利用を想定するなど、堅牢(けんろう)で広大な倉庫ならではのもの。自治体と協定を結んでいる施設も多く、地域のインフラとしての役割が期待されています。
これまでも物流業界では、倉庫や物流のイメージを変えるべく様々な努力を払ってきました。大手物流企業のCMや宅配便配達員のイメージ戦略などもあり、物流に抱く印象は随分変わったのではないでしょうか。地域共生が進む中で、物流不動産の果たす役割はますます大きなものとなっていくことでしょう。
でむら・あきこ=富山県出身。奈良女子大学大学院修了。一級建築士、宅地建物取引士。15年より(株)イーソーコ総合研究所代表取締役。著書に『築古[ビル・倉庫]のリノベーション・コンバージョン計画実務資料集』(綜合ユニコム(株)・共著)






















