施設の老朽化・低未利用が生じた名勝地 民間活力は公園を変えるか 一般財団法人日本不動産研究所 ニューノーマル最前線 不動産の〝変〟と〝不変〟 第38回 奈良市・奈良公園
住宅新報 2022年2月8日 号 16面
連載: ニューノーマル最前線
奈良公園は、日本で最も有名な都市公園の一つであり、世界遺産に指定された寺社の境内を含み、国の名勝にも指定されているほか、東側には広大な春日山原始林を有している。
奈良公園の成り立ちは明治時代にさかのぼり、それまで興福寺の境内地であったエリアが明治政府による廃仏毀釈(きしゃく)で官有地となり、1880(明治13)年に都市公園として開設されたことを起源とする。奈良公園は明治維新後の近代化の進展に伴い、名所旧跡を生かした観光都市化に重要な役割を担い、自然と歴史・文化が融合した憩いの場としての公園の価値が長らくの間維持され、不動の時代が続いてきた。
しかしながら、奈良公園の近年の現状は春日山原始林の荒廃、公園施設や県有建築物の老朽化および低未利用などが生じてきたことから、奈良公園の価値の維持および向上が喫緊の課題とされるようになった。奈良県は11(平成23)年に「名勝奈良公園保存管理・活用計画」、12(平成24)年に「奈良公園基本戦略」を策定し、世界に誇れる奈良公園として重点的な取り組みを始めている。
2つの整備計画
その中で注目したいのは、民間活力の導入による「吉城園周辺地区」および「高畑町裁判所跡地」の整備計画である。「吉城園周辺地区」は奈良公園の西端に位置し、奈良県庁や興福寺に近接しており、知事公舎をはじめ、独特な邸宅のたたずまいが残る一方で、一部の建物は老朽化が著しく、樹林地も手入れが行き届かず名勝地としての価値を十分に維持できていない状態にあった。
また「高畑町裁判所跡地」は、奈良公園の南端に位置し、鷺池や浮見堂に隣接しており、明治期から大正期にかけて所有していた大阪の財閥「山口家」が作庭した庭園は歴史的資源として高く評価されているが、園池への土砂の堆積等により十分に利活用できる状態にはなかった。いずれも名勝の指定を受けている文化価値の高い建築物や庭園を有しているものの、管理者にとって維持管理にかかる多大な費用などが大きな負担となっていた。
そこで奈良県は、公募型プロポーザルを17(平成29)年に実施し、当該地区の保存管理および活用のために宿泊を中心とした事業を実施する事業者が決定された。「高畑町裁判所跡地」の事業が先行し、20(令和2)年6月に約1万3000m2の敷地上に宿泊施設(写真-1)と飲食施設が開業し、既存の庭園が復元整備された(写真-2)。宿泊施設は2階建ての瀟洒(しょうしゃ)なラグジュアリーホテルで周辺地域に溶け込んでいる。
「吉城園周辺地区」の開発事業も昨年末から動き出し、既存の邸宅のたたずまいを継承した有効活用や庭園(写真-3)の再生を目指して約3万m2の敷地上に高級ホテルの誘致、レストランや体験学習施設などの整備等が進められ、23(令和5)年5月末に開業予定とされている。
奈良公園は現状を維持するために土地利用が厳しい法的規制の下に置かれているが、観光都市奈良を支える奈良公園の価値の向上のため、今回高級ホテル等の誘致が進められた。この動きが奈良公園にとってニューノーマルとなるのか。時間の経過が答えを出すまで待つことにしたい。
(奈良支所/不動産鑑定士・松山順一)

























