この地上において今 住まいが未来を語り始めた ◇28 住宅評論家 本多信博 賃貸住宅経営近代化に必須 「定借」を敬遠する時代は終わった
住宅新報 2021年2月9日 号 15面

集合住宅にとって不良入居者がいないことは究極の価値。つまり生活ルールを守らない入居者をオーナーが追い出すことができる定期借家権は、その他の入居者にとっては最大のメリットでもある
今年6月から「賃貸住宅管理業法」に基づく管理業者としての登録義務制度が始まる。200戸以上を管理している業者が対象だが、登録には「業務管理者」(以下、管理者)の設置が必要になる。その管理者として認定されるのは賃貸不動産経営管理士または宅地建物取引士となる。
管理者はいわば賃貸住宅経営のプロだから、賃貸住宅経営を安定させる能力が求められる。経営の安定化に欠かせないのが「長期修繕計画」だが、将来の賃料収益に一定のめどを立てなければ修繕計画も〝絵に描いた餅〟になりかねない。
長期修繕計画を担保
将来の賃料収益を確保するためには、普通借家権よりも定期借家権のほうが優れている。普通借家権は賃借人からの中途解約が自由だが、定期借家権契約なら契約期間中は賃借人にも借り続ける義務があるので、原則として中途解約ができない。どうしても解約する場合にはペナルティを払わなければならない。
だからこそ、Jリートがスタートするとき、オフィスビルの賃貸借契約は定期借家権契約が大前提となった。
では、賃借人にとってのメリットは何か。それは、賃料を普通借家よりも割引することで賃借人にも定期借家権契約を選ぶメリットが生まれる。
例えば、子供が現在小学3年生なので卒業するまでのあと3年間は転居しないという場合、3年間の定期借家契約を結んで入居する。その代わり、同じアパートでも普通借家権の部屋に比べると家賃が5%安い。仮に普通借家権の家賃が10万円なら3年間で18万円も〝お得〟だし、更に途中の更新料(10万円)もないので合わせて28万円も住居費を節約することができる。
家主にしても、3年間の賃料342万円(9万5000円×36カ月)が確定するメリットは大きい。中期的な修繕計画や設備投資計画を実現するための担保となるからだ。そのメリットに比べれば、家賃1カ月分の更新料が取れなくなることなどさほどの問題ではない。
しかもこの方法は、収益力が落ち始めた中古アパートでも活用できる。収益を確定する方法としてサブリースを利用するオーナーが多いが、本来なら築10年を経過したころからこそ頼りにしたいのに、サブリース契約は一般的に新築時からが締結の条件だし、10年も経てば借り上げ賃料の引き下げを求められることが多い。その点、収益確定を目的に定期借家権を導入する方法はオーナーの判断でいつでも実施することができる。
普及しない要因
前回(2月2日号)のこのコーナーで、「定期借家権は日本では退去させることができる点だけが強調されているが、それ以外にも多くの活用メリットがあることが理解されていない」と述べた。日本で定期借家権が普及していない最大の要因は、期間が終了すればオーナーは正当事由がなくても入居者を退去させることができる点だけが強調され、それがすべての借り手にとってデメリットと認識されてしまっていることだ。
しかし、生活ルールを守らない入居者を退去させることができるということは、その他の入居者にとっては大きなメリットになることを見落としてはならない。賃貸、分譲を問わず集合住宅にとって最大の価値は「入居者の中に迷惑をかける人がいない」ということである。
例えば、隣人による騒音トラブルがよく問題となる。中古マンションを購入した人が、入居後に隣人による騒音に悩み、仲介業者に苦情を申し入れても「気にしすぎでは」と取り合ってもらえないといった相談は後を絶たない。
購入してしまった住まいであればなおさらその悩みは深刻だ。賃貸であればイザというときには引っ越すこともできるが、そのハードルは決して低くない。だからこそ、定期借家権の賃貸住宅にすることで、そのような〝不良入居者〟リスクを回避することができる。
つまり、同じ集合住宅でも分譲マンションに対する賃貸住宅の最大の魅力(価値)は定期借家権を導入することで初めて実現するということである。 (住宅新報顧問)






















