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スタンダード会員限定この地上において今 住まいが未来を語り始めた ◇13 住宅評論家 本多信博 〝気付き〟の哲学 理性と論理に埋もれる未来

住宅新報 2020年10月20日 号 19面

連載: この地上において今― 住まいが未来を語り始めた

総合
最近、住まいの宿泊体験を兼ねた貸し切りVILLAが増えている。単なるアウトドアライフではなく、家の中に上質な暖炉を備えるなど感性豊かなリビングライフが人気を集めている(写真は「GREEN・SEED・軽井沢」)

最近、住まいの宿泊体験を兼ねた貸し切りVILLAが増えている。単なるアウトドアライフではなく、家の中に上質な暖炉を備えるなど感性豊かなリビングライフが人気を集めている(写真は「GREEN・SEED・軽井沢」)

 テレビで野生動物の生態を

見ると感動する。彼らの動きは、〝気配〟を察知し、瞬時に反応する本能の連続である。敵はいないか、獲物はどこか、水場はあるか、そして仲間や家族と離れてしまっていないか――。

 動物園の動物には、そうした緊張感がまったく見られない。どちらが動物らしいかといえば、もちろん前者である。人間もはるか昔、野生動物の一種だった頃はそうした気配の察知と、本能がなせる〝気付き〟の連続のごとき動きをしていたに違いない。それに対して現代の我々は、もしかしたら〝動物園〟という檻の中か。

   ◇     ◇

 現代人が檻の中にいるとすれば、その〝檻〟とは何か。もちろん、鉄格子などではなく、それはいわば目に見えない精神の檻だろう。精神の檻とは理性や論理を信奉しすぎて感性の解放を忘れた現代人の心の病気あるいは心の習癖のようなものである。

 人間は理性や論理だけでは決して幸せになれない。なぜなら理性は嘘をつくし、論理的思考は人工知能(AI)の登場で人間の専売特許ではなくなったからだ。この当たり前のことに現代人は早く気付くべきである。

AIとBI

 近年、AIの発達とともにベーシックインカム(BI)の議論が出てきているのは決して偶然ではない。いずれ人類は、働かなくてもいい(というよりAIよりも効率的にできる仕事が見つからない)時代がおそらくやってくる。効率や生産性ばかり重視してきたツケだろう。

 仕事がなくなった人間は消費することしか社会的存在価値がない。収入がなくなるのだからBIが必須となる。「AIがどんなに発達しても、人間にしかできないことはあるのだから、そこに新たな仕事を創りだしていけばいい」という楽観的意見もある。

 だが人間にしかできないこととはなにか。仮にそれが〝心〟に関するものだとして、心を封印してしまいつつある現代人にそれが可能なのだろうか。

 日経新聞の記事(10月8日)によると、日産自動車は今後発売する全新型車に簡易な自動運転機能を標準装備するという。高価格車は高速道路での手放し運転が可能になる。おそらくこの自動運転技術が、人間を消費するだけの存在に変えていく端緒になるだろう。人間は車を運転するという楽しみを奪われ〝乗る〟という消費だけが許される。なぜなら、いずれ人間による運転は安全が保障されないという理由で法律が禁止することになるだろうからだ。

幸福と技術

 自動化技術の住まいへの導

入も着々と進んでいる。マンションのエントランスも戸建て住宅の玄関も顔認証技術で自動ドア化されるだろう。家の中の空調や冷暖房はコンピューターで自動制御されている。照明器具や家電はインターネットでスマート(AI)スピーカーに接続されているので人が話しかけるだけで操作ができる。またAIスピーカーはクラウドサービスを使って音楽再生、スケジュール管理、メール操作、ニュースの読み上げ、動画再生、ショッピングサイトとの連携などもできる。

 リモートワークの技術が進展すると、人は家の中にいたまま仮想空間上の会社のオフィスにアバター(自分の分身)を出勤させて仕事ができるようになるらしい。人間は最終的には一歩も動かずに何十年も生活できるディストピアを目指すことになるのではないか。ここまでくれば、人間が科学技術を信奉し、利便性や合理性、機能性ばかりを追求していくことの恐ろしさに気付く。

 松本清張の推理小説の中には、飛行機を使うトリックがアリバイ作りに登場する作品がある。これを現代人が一笑に付すことはできない。人間はある時まで、庶民が飛行機を使って移動することなど思いもしなかった時代を確かに生きていたのだ。

 文明の発達というひと言ですべてを当たり前と思い込んでしまう人間の危うさがそこにある。人間は「命」の本質ともいえる感性に満ちてこそ幸せを感じることができる。

      (住宅新報顧問)

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