相続法改正と不動産 3回 遺産分割 (上) 全国貸地貸家協会専務理事・耶馬台コーポレーション社長 宮地忠継
住宅新報 2020年10月20日 号 10面

勝手に引き出した預金のゆくえ 具体的なケースを考えよう。伊藤剛氏は渋谷で建設機械のリース事業を行っている。奥さんは数年前に亡くなった。子供は3人で長男の純一、次男の紀夫、三男の光がいる。伊藤剛氏は独り身の気楽さから、渋谷区本町の賃貸マンションに住んでいる。長男の純一は勤めていた会社を辞めこの度不動産業を始めた。剛氏は長男純一を応援するため、自分が持っている高幡不動にある時価6000万円相当の賃貸用アパートを贈与した。長男純一は父親の剛氏にある時インターネット・バンキングを勧めた。そして、パスワードカードも入手した。
さて、このような状況下で父親剛氏が亡くなった。相続時の遺産はネット・バンキングの預金4000万円と渋谷に持っている時価2億円の小型の賃貸ビルだ。総額2億4000万円で遺言はない。遺産分割はどうなるのだろうか。まず、長男純一が昔父親からもらった高幡不動の時価6000万円の賃貸用アパートが問題となる。これは、「特別受益」と呼ばれて、相続の遺産分割を計算するときには、いったん被相続人である剛氏の財産であるとされ計算上戻される。これを「持ち戻し」と言う。
この戻された財産を含む3億円を遺産と見なし、遺言がないのでこれを3人で法定相続分に従って分ける。次男紀夫と三男光はそれぞれ1億円分を貰ってめでたしとなるが、長男純一は自分の相続分から「特別受益」分を引かなくてはならないので、長男純一の相続分は4000万円となる(民法第903条)。
ただ、ここで事件が起きる。長男純一は不動産業があまりうまくいっていない。今は喉から手が出るほど金が欲しい。兄弟3人での遺産分割協議はこれから始まる。金融機関はまだ剛氏の死亡を知らないので預金は凍結されていない。長男純一は、ついに禁じ手に手を染める。パスワードカードを持っているのでネット・バンキングを使って父親剛氏の預金4000万円を自分の支払先に振り込んでしまった。しかし次男、三男はまだ父親の預金4000万円があると思っている。
ただ、この段階で形がある遺産は時価2億円の渋谷の小型賃貸ビルだけ。さて、そうなるとどうなるのか。今までの最高裁の判例では、相続すべき財産を算出するときの基礎になる財産は、その分割の時に相続財産として存在しているものでなければならないとされてきた。この原理を使えば、現実にある財産は2億円。ここに長男純一に対する特別受益を加えた計算上の財産は2億円6000万円。3人で割れば8666万円だから次男紀夫と三男光はそのまま各8666万円となります。長男純一は特別受益分が引かれるから(8666万円―6000万円で)2666万円となる。ただし、長男純一は勝手に引き出した4000万円を手に入れている。では、長男純一が処分した銀行預金4000万円は計算に入れなくてもよいのだろうか。ここが今回のテーマの重要なところとなる。






















