点検 不動産利活用 持続可能社会への取り組み 一般財団法人 日本不動産研究所 第19回 ミルクとワインとクリーンエネルギーのまち 岩手県葛巻町 〝天・地・人のめぐみ〟生かす
住宅新報 2020年9月22日 号 18面
連載: 点検 不動産利活用
葛巻町は、岩手県北部に位置する山間の町で、「北緯40度ミルクとワインとクリーンエネルギーのまち」をキャッチフレーズに、地域資源を徹底的に活用した独自の町づくりを実践している。持続可能社会の実現へ向けた先進的な事例として、葛巻町における町づくりの取り組みを紹介したい。
北緯40度、北上山地の北西部に位置する葛巻町は、寒冷な気候で、かつ森林が約86%を占め、宅地はわずか0.6%にすぎないため、林業と酪農・畜産業を基幹産業としてきた。1975(昭和50)年に着工された「新全国総合開発計画」に基づく北上山系開発事業によって、町内の1000メートル級の山々は牧草地として整備され、酪農・畜産業は順調に発展を遂げた。町内の牛の飼育頭数は、乳用牛約7000頭、肉用牛約1800頭(町人口よりも牛の数のほうが多い)、1日の牛乳生産量は100トンを超え、葛巻町は今では東北地方随一の酪農郷となっている。
また、葛巻町では、地域に自生する山ぶどうを活用することに着目して、昭和60年代からワインの製造が開始された。現在では栽培から醸造までの一貫生産体制が確立され、品質についても人材の外部派遣等によって味に磨きをかけて評価を高めた。日本ワインブームも追い風となり、現在は「くずまきワイン」として全国にも販路を広げている。このように地域資源を生かした「ミルクとワイン」で成果を収めてきた葛巻町が取り組む、地域資源活用のもう一つのテーマが「クリーンエネルギー」である。
クリーンエネルギー導入
葛巻町は、豊かな自然を重要な地域資源と位置付け、この地域資源を活用することを重視して、98(平成10)年度に「葛巻町新エネルギービジョン」を策定した。同ビジョンは、風力や太陽光などの「天のめぐみ」、酪農の糞尿や間伐材などの「地のめぐみ」、葛巻町の豊かな風土・文化を守り育てた「人のめぐみ」を3本柱として、地域資源を循環、活用させるという先進的な理念である。同ビジョンが策定された翌年の99(平成11)年に袖山高原に風力発電所が稼働したのを皮切りに、太陽光発電、バイオマス等の自然エネルギー施設が設置された。
ビジョンの策定から約20年経過した現在、葛巻町は、風力発電を中心とする自然エネルギーによる総発電量が町の消費電力を大きく上回る、日本屈指のクリーンエネルギー先進地域に発展した。また、クリーンエネルギーに係る一連の取り組みは、全国からの注目を集め、葛巻町の知名度を押し上げた。更に、クリーンエネルギーを主体にした観光ツアーもあり、温泉等の観光資源が乏しい葛巻町にとって、クリーンエネルギーそのものが観光資源の一つになった。とりわけ高原に広がる風力発電所の風車は壮観であり、葛巻町のシンボルともなっている。
一方、葛巻町は他の山村自治体と同様に、深刻な過疎化に直面している。89(平成元)年には1万人以上あった人口が現在ではほぼ半減した一方、高齢化率は50%近くまで上昇している。過疎化・高齢化を背景に土地需要は低迷し、地価下落率は岩手県内でもワーストクラスとなっている。こうした状況を打開する方策として、葛巻町は移住・定住支援に積極的に取り組んでいるが、現段階で人口減少のペースは緩まっていない。
しかし、コロナ禍をきっかけに、人口が過密でない地方への回帰志向が見られる今、葛巻町には追い風が吹きつつあると筆者は考える。牛よりも人が少ない葛巻町の人口密度の低さは安心感を生み、豊かな自然と共生するこの町での暮らしは、都市居住者にとって魅力的である。若い世代が流入することで、持続可能な町として一層発展することを期待したい。(盛岡支所、不動産鑑定士・貝原敦)

























