加速するオンライン住宅営業 非対面、真の効率化なるか
住宅新報 2020年9月15日 号 1面

長谷工グループが導入したライブ物件案内サービス。営業担当者はカメラを片手に、まるで実際に案内しているかのような接客が可能
住宅購入者に最終的に購入に踏み切った理由を聞くと、従来は意外にも「営業マンが親切で信頼できると思ったから」という回答が多かった。しかし、今後、住宅営業のオンライン(非対面)化が進めば、営業担当者と顧客との人間関係は従来とは微妙に異なってくるだろう。少なくとも、これまでのように「難しいことはよく分からないので、最終的には営業マンを信頼するしかない」といっ牧歌的関係は薄れていく可能性が高いのではないか。
では、営業の生産性向上が厳しく問われる今、事業者側はこうした住宅営業を取り巻く環境の変化をどう見ているのか。
ペーパーレス化で負担軽減
野村不動産は9月12日から、新築分譲マンションや戸建て住宅の売買契約において書面の電子化をスタートした。
まずは売買契約を結ぶに際しての覚書などの電子化を進め、今冬には売買契約書も電子化する予定だ。現在の宅建業法上では37条書面は交付が必要となるため、それは別途郵送することになる。
昨年7月からデジタルガレージ、更には弁護士ドットコムが提供する電子契約サービス「クラウドサイン」とのAPI連携で開発を進めた。狙いは、売買取引時には署名捺印を必要とする書類が多々あり、そうした顧客の負担を軽減すると同時に、デジタル化によって社内の契約事務の効率化を図ることだ。同社はIT重説の社会実験にも参画している。
投資家にもメリット
年間約450戸の投資用マンションを販売しているプロパティエージェント(東京都新宿区)もオンラインを活用した商談、契約体制を整える。昨秋にIT重説の社会実験に参画し、更に電子契約サービスのドキュサイン・ジャパンと提携した。もちろん顧客の要望に応じて、対面での商談や物件案内、契約も並行しているが、コロナ流行もあり「現状、メインはオンライン」(同社)になっているという。電子化している書面は2つ。売買契約書(37条書面は別途交付)と、その後の管理を請け負うための契約書。売買契約書が電子化できると印紙代が削減でき、顧客にもメリットがある。同社の宮城竜・アセットプランニング部マネージャーは、オンラインでの営業について「対面と比べて特に弊害は感じない。むしろこれまでは移動時間が必要だったために、1日の商談件数は多くても4件。それがオンラインにすることで2倍の8件程度まで対応できるようになった」と話す。ただ、画面越しの商談となるため、内容が相手に伝わっているかの確認や、話すスピードなど対面時とは別の工夫も必要になっているという。
進化する〝物件案内〟
営業がオンライン化していくときの究極の課題は、住宅であれ、投資用物件であれ、現物を見ることなく契約にまで進むことが可能かという点だ。特に自分が住むための住宅となれば、単にパソコン画面を見て説明を聞くだけではなく、〝体感〟したいというニーズは強いはずだ。
モデルルームを展示するスタイルのマンション販売はそうした顧客の〝体感欲求〟をどう受け止めようとしているのだろうか。
◇ ◇
長谷工グループの総合地所が分譲する新築マンション「ルネ横浜戸塚」(神奈川県横浜市、総戸数439戸)のマンションギャラリーでは、7月からライブ物件案内サービス「Air-DAM(エアー・ダム)」を導入した。カメラ(スマートフォン)を持った営業担当者が、ギャラリー内の模型室やモデルルームをまるで実際に案内しているかのように顧客と対話しながら歩く(写真)。遠方の顧客がキッチン設備をもっと詳しく見たい、収納はどうなっているのかなど要望を出せばその場でカメラを向け、それを見せながら説明を加える。
もちろん、これは〝体感〟ではないが、〝青田売り〟が原則のマンションとしては、モデルルームの見学をオンラインでいかに〝実感〟してもらうかに努めるしかない。顧客としては、自宅に居ながらモデルルームを見学することができれば、現実の自宅と比較しながら家具のサイズなどを確認しやすくなるというメリットもある。
基本は来場だが
同物件の販売を担当している宮田真悟・長谷工アーベスト東京支社販売部門プロジェクトマネージャーは、「あくまでも、来場してもらうのがメインであり、今のところこれはサブ的な位置付け。ただ、こうした選択肢があれば、様々な事情で実際に来場できないお客様にも説明や情報提供ができる」と話す。もともと、マンションギャラリーは、単なる情報提供だけでなく、ワクワクする気持ちに訴えかけるのも重要な役割だ。そう考えればオンラインでの体験にもそれなりの可能性は開けてくる。
コロナ流行下で急速にオンライン化、非対面化が進んでいるが、仮にコロナが収束したとしても「完全に後戻りすることはないだろう」というのが大方の見方だ。
オンライン化、非対面化の最終目標は重説(35条書面)と契約書類(37条書面)の電子化だ。現段階では郵送による書面の交付が必須条件だが、国土交通省は将来的には宅建業法を改正して完全電子化も選択できる方向性を打ち出している。
国交省不動産・建設経済局不動産業課の井崎信也課長はこう話す。「オンライン化・電子化にもメリット、デメリットがある。要するに問題は重説や契約内容がしっかりと消費者に伝わることができるのかという点。消費者保護とのバランスを考えながら、今後も実験を重ねていく」。
営業活動のオンライン・電子化の行方が今後の不動産業界にどんな影響をもたらすのかは各社ともまだ手探り状態といっていい。
ただ、AIを中心とする技術の進化は予想をはるかに超えるスピードで進む。営業マンに求められる能力や資質も大きく変わるだろう。〝非対面〟を真に効率化していくための知恵が求められている。
(井川弘子)






















