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スタンダード会員限定幸福論的 『住宅論』 住宅評論家 本多 信博 92/100 住まいってなんだ? 宇宙の果てを知る空間

住宅新報 2020年5月19日 号 11面

連載: 幸福論的「住宅論」

総合
なぜか分からないが、そこに身を置くと心が落ち着き、気分が和らぐ場所―そういうスピリチュアルな要素が住まいには必要だ(BESSスクエアのモデルハウスにて)

なぜか分からないが、そこに身を置くと心が落ち着き、気分が和らぐ場所―そういうスピリチュアルな要素が住まいには必要だ(BESSスクエアのモデルハウスにて)

 外出自粛が長期化することで、住まいのあり方を見直す機運が高まっている。在宅勤務が増えたり、家の中で楽しく過ごす方法が注目されたりする中で、これまであまり意識しなかった「住まいってなんだ」と考える人が増えてきたのだと思う。しかし、その問いはあまりにも漠然としていて、とっかかりがない。

自分の居場所

 そこで、住まいを「自分の家」ではなく、「自分の居場所」と考えてみる。つまり、一人でいても、心が落ち着き、気分が和らぐ場所である。今回、コロナ感染防止対策で日本中の人が言わば〝自宅蟄居〟を余儀なくされたが、一日中外に出ないことがいかに苦痛であるかを思い知らされた人が多かったようだ。ややうがった見方をすれば、それは多くの人にとって自分の家が〝自分の居場所〟とはなっていないことの証(あかし)ではないだろうか。

 こう書くと、「一般の人は有名人のように、ひろ~い家に住んでいるわけではない」という声が聞こえてきそうである。しかし、住まいが自分の居場所となるかどうかのポイントは、家の広さや設備の豪華さだろうか。おそらく、そうではない。それは多分に、自分の家にどれほど住み手である自分の手が加わっているのか、あるいはどこまで自分の住まいに対する思いが詰まっているのか、ということで決まるような気がする。

 京都大学名誉教授の高田光雄氏はこう述べている。「(住まいにおいて大切なことは)住み心地ではなく、住み応えがあるかどうかである。(なにかしらの意味で)住まい手が住まいに能動的に関われることは、住まいの価値の一つの重要な柱である」。

 これは、ある討論会(16年、「エネルギー・文化講座」)での発言である。よく使われる「住み心地」という言葉は受動的だが、「住み応え」という言葉には能動的感覚がある。つまり、住まいというものは、ただ人から与えられるだけではなく、住み手がなんらかの形で関わってこそ「住んでいるという手応え」が得られるということを高田氏は言いたかったのだと思う。

手を入れる

 考えてみれば、現代の一般的新築住宅にはそうした発想がない。マンションも戸建て住宅も、購入者が住み始めてからのち、自ら手を入れながら住みこなしていくという前提で造られているわけではない。また、ユーザー側がそれを不満とする声も聞かない。

 ということは、「住まいを自分の居場所」と捉える思考が日本人には乏しいということなのだろうか。だとすると、昨今のリノベーションブームと矛盾する。新築住宅を買う資金のある人があえて中古住宅を購入し、浮いた資金で〝自分らしい棲家〟に改造するリノベーション住宅が人気を集めているからだ。

 あるいは新築住宅市場でも一部だが、購入者が自分で手を加えながら住みこなしていくことを前提にした住宅を販売している会社がある。BESSブランドを展開するアールシーコア(東京都渋谷区、二木浩三社長)はその最大手で、無垢材を使ったログハウス風の〝自然派個性住宅〟を自宅用に販売し業績を伸ばしている。

 中古のリノベーション住宅にしても、ログハウス風の〝自然派個性住宅〟にしても、共通していることは住み手が〝自分の感性〟を住まい選びの基軸に据えていることだ。つまり、彼らは住まいを単なるハコや設備とは考えず、そここそが〝自分の居場所〟とするにふさわしいスピリチュアルな空間として捉えている。英語のspiritは精神、心、霊などと訳されるが、ここでは「未知なる陶酔」とでも訳したい。

 なぜかは分からないが、そこに身を置くと、心が落ち着き、気分が和らぐ――そういうスピリチュアルな要素が、住まいには必要なのだ。

 科学技術がどれほど発達しても解き明かせない謎が二つある。一つは、なぜこの世は存在しているかということ。もう一つは、人間の心とは何かということだ。そして、おそらくこの二つの謎は宇宙の果てのどこかでつながっている。そんな神秘な陶酔感に浸ることができてこそ、住まいは住み手にとって心安らぐ自分の居場所となる。

     (住宅新報顧問)

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