残したい情景~文化的歴史的所産を巡る~ 第24回 岩手県盛岡市 一般財団法人 日本不動産研究所 誉れ高い「南部駒」の供給地 岩手が誇る馬事文化の継承を
住宅新報 2019年10月22日 号 20面
みちのくの初夏の風物詩「チャグチャグ馬コ」が、岩手県盛岡市で毎年6月に開催される。
「チャグチャグ馬コ」とは、華麗な装束をまとった100頭近くの馬が、隣接する滝沢市の鬼越蒼前神社から盛岡市中心部に位置する盛岡八幡宮までの約13キロを、「チャグチャグ」と鈴の音を鳴らして行進する伝統行事である。この行事は、岩手県の馬事文化を代表すると共に、岩手県が全国有数の馬産地であったことを象徴している。
さて、盛岡八幡宮にほど近い、同市松尾町に、「チャグチャグ馬コ」と同様に、岩手県が馬産地として栄えたことを象徴する建物があった。それは、「盛岡馬検場」である。馬の検査及び競りを行うための施設で、木造平家建の馬検場部分と木造2階建の事務所部分から構成される。同建物は1912年に建てられた、築100年を優に超える建物だったが、老朽化による維持困難等の諸事情から、惜しまれながら昨年2月に解体された。
5世紀頃に馬飼い
古来から東北は馬産地として知られ、5世紀頃には既に馬飼いが行われていた。8世紀に大和朝廷が奥州に侵攻した際には、蝦夷(えみし)の将アテルイ率いる強力な騎馬軍団が朝廷軍を圧倒したという。南部藩領であった岩手県は、日本在来種の馬の中でも良馬の誉れ高い「南部駒」の供給地として名を馳せた。
南部藩城下町である盛岡には、江戸時代初期から幕府や諸藩の馬買付役人が盛んにやってきたことから、1710年に南部藩は馬を売買する場所を旧馬町(現盛岡市清水町)に指定し、以降、この場所で馬市が開催されることとなった。旧馬町で始まった馬市は、明治時代以降、軍用馬の需要が増え、手狭となったため、1912年に松尾前(現盛岡市松尾町)に移され、盛岡馬検場が建築された。馬検場を中心に開発されたこの地域は、翌年に新馬町として開町した。
更に規模が大きくなった馬市は、全国から馬喰達が集い、馬の列が延々と連なる賑わいだったという。なお、盛岡馬検場は、1941年公開の映画「馬」(高峰秀子主演)のロケ地ともなっている。
軍用から農耕馬へ
戦後の馬産業は、不要となった軍用馬から農耕馬として活路を求めたが、農業の機械化などによって、馬が活躍する場は限られるようになった。こうして馬産業が衰退するなか、盛岡馬検場での取引も先細っていったが、馬市自体は平成の時代に入るまで開催された。そして、1996年に最後の競り市が行われ、江戸時代から続いた盛岡の馬市は終焉を迎えた。
盛岡馬検場が解体された現在、盛岡が馬市で賑わったことを伝える遺産は少ない。馬検場の跡地には、馬の親子の記念碑が設置されており、馬検場の名残を留める。また、旧馬町界隈に点在する土蔵の鬼瓦には馬印が刻まれており、かつてここで馬市が開催されたことを伺わせる。
「チャグチャグ馬コ」は、行進に必要な馬を確保することが年々難しくなっているという。観光資源としても重要なこの行事を存続させるために、行政と市民を上げて地道な努力が行われている。そして、こうした努力の根底にあるのは馬を愛する岩手独自の文化である。目に見える遺産は少ないものの、かつて馬産地として栄えた土地の記憶を継承していくことが大切と考える。
(盛岡支所/不動産鑑定士・貝原敦)

























