居酒屋の詩 (72) 居酒屋の提灯ゆれて赤々と 見えゆく頃ぞ町は悲しき
住宅新報 2019年10月22日 号 19面
連載: 居酒屋の詩
台風19号の上陸が目前に迫っていた週末、ある居酒屋に入った。今回はあえて店名は出さないが、場所は日比谷線沿線である。そこはなんとも暗い雰囲気の小さな店だった。台風が近づいているためか、棚には何本かのボトルがキープされているのにその夜の客は私だけだった。店は60歳を過ぎたと思われる夫婦が経営している。
奥のテーブル席は物置き代わりになっていて客を迎える席は4卓ほどしかない。そのうち、テレビに一番近い席はどうやら夫婦がテレビ観戦をするための席のようでもある。なんとなく雑多な雰囲気がするのだが、その雑多さのせいで妙に落ち着く店でもある。酒の種類は少ないが、料理は刺身、魚、焼鳥、てんぷらなど充実している。中でもマグロの刺身は絶品である。不思議な魅力に惹かれて週明けにも寄って見た。やはり客は私だけだ。「夫婦経営で、こぢんまりとした和風の店」という私が好きな居酒屋の条件を十分満たしているのに、何かが足りない。






















