残したい情景~文化的歴史的所産を巡る~ 第23回 秋田県山本郡藤里町 一般財団法人 日本不動産研究所 鉄道も国道もない町の宿泊体験 大自然の四季をあるがまま
住宅新報 2019年10月15日 号 14面
世界自然遺産である白神山地の麓にある藤里町は、秋田県の内陸北部に位置し、行政区域の大半は山林が占め、自然豊かな町である一方、町内に鉄道はなく、国道もない。
藤里町の人口は、75(昭和50)年の国勢調査では5837人であったが、19(令和元)年7月時点では3214人まで減少している。また、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、40年(令和22年)には1796人になると推計されており、過疎化の進行が激しい。
あるがままの自然 このような状況のなか、町内には、かつては分校も含め複数の小学校が存在していたが、現在では町の中心部に位置する「藤里」小学校を残すのみとなり、多くの小学校が閉校した。
この閉校した小学校の1つである旧「坊中」小学校を民間人が購入し、地元民と一体となって、山里を体験する宿泊施設(白神ぶなっこ教室)として利活用されている取り組みがある。トイレ等は改修されているが、教室、理科室、校長室といった風景は閉校した当時のままであり、時代にあわせた施設ではない。
ここにある大自然を、ただただそのまま活かしている。
新緑が美しい春には白神山地の散策や山菜採り。晴れ渡る夏には川魚がたくさん生息する藤琴川での川遊び。稲穂が実る秋には農作業体験。辺り一面が真っ白となる冬には雪遊びやきりたんぽ作り。観光地化されていないので、四季彩りの季節を活かした、この町の文化、自然といった原風景を感じることができる拠点となる施設である。
実際に体験するため、子供達の夏休みにあわせて、友人と多くの子供達を連れて宿泊した。私を含め同行者は秋田市在住である。首都圏からみれば秋田市も田舎であるが、秋田市でもなかなか体験することはできない大自然。都会の子供達であれば尚更である。
古い木造校舎のため、廊下が軋む。子供達の廊下を走る音はドンドンドン。子供の頃、先生に言われた、「走ってはいけません」という気持ちがよくわかる。うるさいし、埃が立つからだ。都会では体験することができない川遊び。子供達の中にはヤスで突き、ヤマメを獲った子もいた。校門前でのバーベキュー。ヤマメも美味しくいただいた。水道水もすごく美味しい。
童心に帰る
心優しい地元の方から馬肉ホルモンの差し入れもいただいた。色は独特だが、酒に合う。夜中の肝試しでは、何も出ないのに喚く子供達。無数の星空の下、色々な生き物の心地よい鳴き声。
大人は童心に帰り、子供達も体験したことのない大自然にずっと笑顔。
ただ、地元の方に「すぐそこだから」と言われて歩いた温泉は、私の思いとは全く異なる距離感であった。
帰りがけに、次にみんなで行きたいところを聞いてみた。すると返ってきたのは、屋内型複合レジャー施設の「ラウンドワン」。
まぁ、仕方がない。大人が知恵を絞って造った施設に勝つことは難しい。でも、子供達が自ら知恵を絞って遊ぶしかない大自然には、無限の可能性を感じた。(秋田支所/不動産鑑定士・平野 太郎)

























